服装での貢献

中国・広州で行われていたアジア競技大会も、今月27日で終わったわけだけど、あれを観ていてどうにも気になっていることがある。それは女子選手の服装である……ああ、女子選手といっても、女子一般の話ではない。僕が気になっているのはムスリムの女子選手の服装である。

皆さんご存知(じゃない人もいるかもしれないけれど)の通り、ムスリムの中でも保守的な人々は、女性が髪や肌を人目に晒すことをタブー視する。選手自身がどういう考え方であったとしても、このタブー視というのは大きな社会的プレッシャーとして作用するわけで、そのためにムスリムの女子選手の多くは、身体全体と頭を覆う服装で競技に参加している。

あの服装で短距離走などに参加しているのを見ると、もう少し何とかならないものか、と考えてしまう。ただ、ここで勘違いしてもらいたくないのは、そんな服装を止めるべきだ、と言っているわけではない、ということである。

たとえば、日本ではマイナーな競技だけど、イギリス発祥のスポーツでクリケットというのがある。今回のアジア競技大会では、女子のクリケットはパキスタンが金メダルを獲得した。この競技に関する報道を見てみると:

パキスタンのクリケット女子、脅迫にめげず快挙

【イスラマバード=横堀裕也】中国・広州で開かれたアジア大会でパキスタンのクリケット女子チームが金メダルを獲得し、「ゴールデン・ガールズ」(地元紙)と絶賛されている。イスラム保守層などからの中傷、脅迫にめげずにつかんだ「歴史的快挙」(同)だ。

ザルダリ大統領は、対テロ戦争や未曽有の洪水被害を念頭に、「国難に立ち向かう国民への素晴らしい贈り物」とたたえた。

19日の決勝でバングラデシュを破ったチームは、帰国後も大統領官邸に招かれたり、大学でプレーを披露したりと引っ張りだこだ。

イスラム教を国教とする同国では、保守層を中心に、肌や髪の露出につながる女子のプレーはタブー視されてきた。脅迫などの妨害を乗り越え、国際試合を戦えるようになったのは、わずか十数年前。大会前、ある選手は「今でも中傷は日常茶飯事」と語っていた。

対照的に肩身が狭いのが、男子代表チーム。ある世界ランキングでは、かつての3位から7位に後退。メディアは「女子を見習え」と厳しく批評している。

(2010年11月30日16時05分 読売新聞、元記事リンク

この記事を読んで、これが女性への宗教的呪縛からの解放だ、ととるかどうかは個人の自由である。しかし、信仰の自由というものが尊重されるべきなら、信仰において求められる戒律が、こういう競技において有利・不利を生むことが最小限になるような努力もまた求められるものではないだろうか。戒律を守ることを選択しても、それが可能なかぎり不利にならないような、そんなウェアが開発されているという話を、僕は今まで耳にしたことがない。

ただ単に、僕が無知なだけで、既にそういう試みは始まっているのかもしれない。それならそれで大いに結構なことである。しかし、陸上競技で、スカーフで頭を巻いて両手足を覆う服をたなびかせ(当然だがそれだけの空気抵抗を負っているということだ)て走っている女子選手の姿を、僕はどうも無視することができないのである。日本のスポーツ用品メーカーの素材開発が優れていることは、誰もが認めるところである。そういう技術を、どうか、ムスリムの女子選手達が全力を発揮するためにも用いてほしい、と、僕は願わずにはおれないのである。

2010/11/30(Tue) 21:24:57 | 社会・政治
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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