なぜ日航はジャンボを全廃するのか?

最近は、周囲の人々の疑問に対して「こんなことも分からないのか」、と嘆息することが多い。とはいえ、今回の標記の件などは、確かに分からない人が多くても仕方ないことのようにも思える。僕は別に飛行機の専門家でも何でもないのだけど、この件に関して一応書いておくことにしよう。

まず、この件に関しては、マスコミの怠慢をまずは正さなくてはならないだろう。「ジャンボ」「ジャンボ」ってそもそも何なの?と、普通の人は思うに違いないからだ。ここで言う「ジャンボ」というのはボーイング 747 のことを指す。なぜボーイング 747 のことを「ジャンボ」と呼ぶのか、というと、訳知り顔で「大きいからだ」とか言う人がいそうで嫌なのだけど、そもそも「ジャンボ」というのはスワヒリ語(アフリカーンス語と誤記していたのを訂正…… Yasu 氏に感謝)で「こんにちは」の意であって、「ジャンボ」という単語に「大きい」という意味はもともとない。象の「ジャンボ」というキーワードで歴史を遡ると、ディズニーの映画『ダンボ』で、ダンボの母親の象の名前としてこの「ジャンボ」が使われているが、これは19世紀末にヨーロッパで人気を博した(実在の)アフリカゾウの「ジャンボ」に由来するものと思われる。ここから(おそらく「空飛ぶ象」からの連想なのだろうけれど)747 が「ジャンボ」と呼ばれるようになったものと思われる。

さて、ではなぜ国際便において 747 が使われてきたのか、というと、ひとつは安全性の問題からである。現在の飛行機は油圧で操縦を行うために、油圧を維持するエンジンが死ぬことは操縦が困難になることを意味するわけだが、4発のエンジンを搭載する 747 は、エンジンが2基、もしくは3基の旅客機と比較すると、エンジンが全て止まってしまうリスクが(単純に統計的に考えて)低い。ボーイング以外の生産した旅客機でも、エアバス A340 のように長距離での運用が前提とされた機体には、4発エンジンが採用されている。一方、これは燃費の面からみるとむしろマイナスで、特に最近は大出力のターボファンエンジンが開発されているために、燃費の面ではボーイング 777 や 787 のように大出力エンジンを2基搭載した機体の方に利があるといわれている。また、最近の2発ジェット旅客機は特に信頼性の確保には神経をとがらせていて、777 のように双発でも 747 と比較してそん色ない信頼性をうたっている。

もうひとつの理由は、やはり大量輸送志向ということであろう。最近流行りのハブ・アンド・ホイールと呼ばれる運用形態でも、ハブ空港間は 747 クラスの大規模旅客機による輸送というのが念頭に置かれていて、だからエアバス・インダストリーが A380 のような「ジャンボ以上にジャンボな」機体を開発したわけである。意外に思われるかもしれないが、日本の航空会社において、このエアバス A380 の導入に熱心だったのは全日空の方で、日航の方は首脳陣以下「ダウンサイジングの対極を行く」と導入意欲がなかったことが知られている。

この日航(正確には株式会社日本航空インターナショナル)という会社、実は世界で最も多くの 747 を保有する会社である。しかも、現時点で運用されている 747 は全て 747-400 と呼ばれる新世代(ディスプレイ計器を用いたいわゆるグラスコックピットで2人運用を可能としている)の機体である。この 747-400 は経済性も低くなく、これで国際線を運用するのは、世界の潮流の中では決してそうオールドスタイルな考えではない。ちなみに前世代の機体である 747-300 は、去年の秋で全廃している。

では、日航は 747 偏重の運用形態なのか、というと、実はそんなことはない。747 の次の世代の国際線用機体としてボーイング 777-200ER を11機、777-300ER を4機(9機が納入待ち)、そして 767-300ER が23機、既に運用中である。この後には更にボーイング 787 も納入される予定である。ここで注目すべきなのは、777 も 767 も、そして 787 も双発である、ということだ。

つまり、今回のような公的資金投入が決まる前から、日航は 747 の次の世代の機体による国際便の運用を準備していたわけである。ちなみに現時点で、国際線における 747 の運用数は21機(国内線で8機……メディアでは37機と報道されているが、これは輸送機も込みの数だと思われる)。前述の「次世代」の機体で既に充分リプレースが可能なわけだ。

何を言いたいのか、というと……要するに、どうしてメディアが「ジャンボ全廃」というのをああも声高に報道するのかが分からないのだ。日航は、規定路線として既に 747 なしで運用できる体制を整えていたわけだし、今の 747 の運用形態を考えても、747 が全廃されることがそう大きな問題になるとは考えられない。この件で騒ぐというのは、いかにも素人然としているようにしか感じられないのだ。メディアに翻弄される前に、Wikipedia 等で現在の航空会社の運用形態に目を通されることをおすすめする次第だ。

2010/01/20(Wed) 15:32:20 | 社会・政治

Re:なぜ日航はジャンボを全廃するのか?

ジャンボ (jambo) は確かスワヒリ語ではなかったかと。
Yasu(2010/01/20(Wed) 20:42:31)
Tittle: Name:

Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

New Entries

Comment

Categories

Archives(902)

Link

Search

Free

e-mail address:
e-mail address