遅れてやってきた幸運

僕は音楽制作に、年代物のオーディオインターフェースを使ってきた。これはTASCAM US-428というシロモノなのだけど、アナログ関連が結構しっかりしていて、Cubase のオペレーションに対して至極便利で、おまけに Linux 上からも簡単に使えるので、もう十年くらい(いや、それ以上かな?)、僕はこのインターフェースを使っている。

とはいえ、もう完全にメーカーも legacy 扱い(っていうかこういうのをまさに legacy って言うんだろうけど)の状態なので、可搬性があるオーディオインターフェースということで、TASCAM US-144を購入してあった。このインターフェースは USB 接続だけど、バスパワーで動作して、しかもファンタム電源まで付いている。音質は US-428 のそれを継承しているならば問題はあまりないだろう……ということで、衝動買いに近い勢いで買ってしまったのだが……実はつい最近まで、こいつは埃をかぶっていたのだ。勿論それには理由がある。

この US-144 を購入したとき、僕は音楽制作に使用している端末を Windows XP (32 bit) で動作させていた。この時点では、使用に際して何も問題は生じなかったのだが、メモリを 4G に増設するのにあわせて、OS を Windows Vista 64bit に更新したとたん、US-144 がまともに動作しなくなった。音がプチプチ切れて、CPU に異常な負荷がかかって、甚だしきに至っては blue screen で OS ごと落ちてしまう……これは僕が 64 bit Windows を使っていてほぼ唯一とも言えるトラブルだったのだけど、これには参った。だって、32 bit OS で動作させていたときには何も問題なかったんだぜ?

まあ、当然これはドライバに問題があるんだろう、ということで調べてみると、この US-144 のドライバはどうやらPloytec GmbHが作っているらしい。更に調べてみると、どうもここの 64 bit 版ドライバには USB コントローラに対するキッツーい相性問題があるらしく、僕の使っている Dell Inspiron 1501 の Ricoh 製 USB コントローラに対して、このドライバがちゃんと動作してくれない、ということらしいのだ。うーむ……丁度そのとき、僕は新しい曲の録音をしようとしていたところで、ドライバ問題を抱えて右往左往するより、もう使わないだろうと思っていた US-428 の 64 bit OS 上での使用を試す方が現実的だったのだ。で、恐る恐る US-428 の 64 bit ドライバを入れてみると、何のことはない、こちらは至極快適に動作する。これならもうこれでいってしまおう……ということで、僕は結構長い間 US-428 を使っていたわけだ。

で、最近、mixi の DTM 関連コミュニティにおいて、「32 bit OS と 64 bit OS、どちらがいいんだろう?」というような質問が頻発していた。そもそも DTM はメモリもたくさん使うわけだし、僕の US-144 のようにドライバで問題が生じるようなことがない限りは、こんなものは 64 bit に移行した方がいいに決まっている。しかしながら、32 bit OS しか使ったことのない人々が、ビギナーに「64 bit はダメですよ」みたいなことをしたり顔で教え込もうとするのを何度となく目にしたので、そのたびに、ドライバで不都合が生じなければ、そんなものは 64 bit の方がいいに決まってるじゃないか、という主張を(当然論拠を明示して)書いていたわけだ。

しかし、どうも喉にひっかかった骨のように、US-144 に関する問題が未解決のまま存在していた。うーん、どうしたものかなあ……と思いつつ、久々に TASCAM のサイトを覗いたら……あれ、ドライバが一気に ver.2 レベルまで up してるじゃないの?どういうこと?

僕も、US-144 がディスコンになったことや、その後継機種としてTASCAM US-144MK2というのがリリースされたということは知っていたのだが、US-122 と US-122L のときのような差異(この2機種は名前はそっくりなのだけど内部チップが違う…… ALSA 関連で USB オーディオインターフェースをいじっているとよくこの話を聞いたものだ)はなく、この後継機種の初期のドライバは US-144 用としてもリリースされている……ということらしい。早速そのドライバを入れてみると……おー、問題なく動作するじゃん!

かくして、サウンドインターフェースとして今僕は US-144 を使用している。ASIO の負荷が US-428 よりも高いような印象があるのだが、僕のように大規模な同録をしない(自分の歌かギター、ベースか、アウトボードのシンセを使うとき位だろう)場合は、これでもどうにかなるようだ……まあ、デスクトップ環境を整えたら、RME Fireface 400RME Fireface 800かのどちらかを入れるつもりなので、それまでのつなぎということになるわけだけど。遅れてやってきた幸運によって、僕はもうためらいなく 64 bit OS の導入を人に薦めることができるようになった。

【後記】US-144 でちょっと録音してみたけれど、よくよく考えてみたらこいつには ASIO ダイレクトモニタリングの機能がないのだった。その代わりに、インターフェース上でマニュアルで入力を返すように設定できるのだけど(まあ ASIO ダイレクトモニタリングも、これを DAW 上で実現しているわけだが)、うーん……せめてドライバでフォローしてくれればなあ。というわけで、結局家での環境は US-428 に戻すことになりそうな感じだ。

2010/09/01(Wed) 07:59:13 | 作編曲・演奏・録音
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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