どうしちゃったんだろう

先日のことである。出先で赤ペンを使っていたら、急に書けなくなった。あれれ、と思い芯を出してみると、綺麗さっぱりインクがない。ここまで綺麗に使い切ったことがなかったので、しばし唖然として眺めていたのだが、ああそうだ、この後も赤ペン使わなきゃならないんだった、と気付いた。この後他の場所に動く途中で買うことにしよう、と思って、ふと、その場所までの行程中文具店がひとつもないことを思い出した。うーん、どうしようか。

歩いていると、某大手コンビニが見えてきた。メントールキャンディも欲しかったし、そこで赤ペンを探してみると……おー、単色の赤ペンというのを、この店舗では置いていないらしい。参ったなあ……2色とか3色とかのボールペンを見ていると、このコンビニのブランドで出している3色ペンが目に留まったので、それを買うことにした。金280円也。

やがて到着した出先で、早速そのペンを使おうとしたのだが、この段になって、このペンに問題があることに気付いたのだった。芯か、芯を押し出すボタンのところかが擦れ合うようになっているらしく、そこで芯同士が引っかかってしまい、選んだ色のペン先が出てこない。先に出たままになっている前の色のペン先を何かに押し当てて無理矢理引っ込め、更に3つのボタンを半押しして位置を整えないと、次に選んだペン先が出てこないのである。

「…… Thomas さん、何やってるんですか?」
「いやあ、このペンがね……引っかかってねえ」

傍で見ている人には、僕が何に四苦八苦しているのか分からなかったろう。でも当の本人としては、軽いパニックだったのである。

帰ってから U とその話になったとき、

「それはちゃんと言った方がいいんじゃない?」

うーん、クレーマーみたいに思われるのも嫌だ……とも思ったのだが、勿論、こういうことは向こうさんに伝える方がいいのは明らかだろう。僕のように、このコンビニのブランド商品だから少し高いのを買ってみて、それで同じめに遭っている人が、おそらく全国で何千人とかのオーダーで出現する可能性だってあるわけで、それを未然に防げれば、僕だけでなく、このコンビニにとっても利益になるわけだろう。

改めて、このボールペンをよく見てみると、商品企画はこのコンビニ(以下Xと称す)、製造はこれも大手の筆記用具関連メーカー(以下Y社と称す)、生産は……タイで行われているらしい。うーむ。中華品質、なんて話は聞くことがあるけれど、タイやベトナムというのは、基本的にはこういうものの品質に関してそう悪い話は聞かないんだけどなあ。しかし、実際にやり直してみても、芯はやっぱり引っかかるわけで、とにかくこの商品に問題があるのは間違いない。

Xの web ページを見てみると、商品に関する問い合わせ等は web のフォームでのみ受け付けるようになっていて、郵送での窓口住所に関しては一切記述がない。ということは……どこに送るかね。Xの持株会社の大代表しか住所が分からないので、仕方がないからそこ宛に書状を送ることにする。

手紙を書いて、封筒にボールペンと共に入れて、切手を貼って投函すると、料金不足で返送されてきた。ボールペンの厚みで引っかかったらしい……舌打ちしながら、合計120円以上になるように切手を貼り足して、再びそれをポストに放り込んだ。昨日の夕方のことだ。

そして今日、いきなり電話がかかってきた。Xの商品担当の人だという。平身低頭謝られた後に、製造メーカーであるY社の担当にも電話させますがよろしいですか、と言う。大事になっちゃったなあ、と思いながらも了承すると、1時間程してから、Y社の担当者から電話がかかってきた。これまた平身低頭の態で、僕の方としても対応に困ってしまうような感じだったのだが、とりあえず、同じトラブルが複数起きているでしょうから、早々に対策をお願いします、後は書状でお願いしますね、とお願いして、電話を切ったのだった。

それにしても解せない。Y社といえば老舗だし、僕も今まで散々この会社の文房具を使ってきたけれど、こんな初歩的な問題でトラブルが生じた記憶は一度もないのだ。製造コストを削減するために海外生産にするのは仕方ないかもしれない。しかし、ひょっとしたら、先方に商品開発の実際の業務までやらせて、それをちょいとつまんで「よしよし」と自社ブランドで売る……そんなことでもしているのだろうか。

先日、テレビで、ある発展途上国に単身滞在しているパイロットの現地法人社長を取材したのを観たのだけれど、パイロットが彼の地で売っている主力商品のボールペンは、中国製の同等商品の数倍もするのだという。しかし、現地の学校などに行くと、生徒のほとんどがパイロットのボールペンを使っている。彼らは、決して豊かでない懐の中から、あれこれやりくりして、ようやくペンを買う。そのペンが簡単に使えなくなってしまっては困るのである。経済水準が低いからこそ、顧客は信頼性を求め、それに応えることでビジネスが成立する、というのである。

僕は、その国の子供達よりはまだ経済的に豊かなわけだけど、でも280円出して買ったペンが使えなかったときには、正直がっかりしたものだ。しかし、日本製品というものは、時としてオーバークオリティと言われる程に、十分な信頼性を有していたのではなかったのか。そうでなくなってしまったのだとしたら、そして世間がそれをよしとしてしまっているのだとしたら、この国の未来は、親から買ってもらったパイロットのペンを大事に大事に使っている子供達の国と比べて、どちらが明るいのだろうか。たかがボールペン、と言われるかもしれないが、そんなことを考えてしまったのだった。

2013/02/21(Thu) 17:29:19 | 日記
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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