わけわかんないのから崇高なのまでいろいろ

(編者註:)ヨブ記のはじめは、聖書を初めて読む人に混乱を与える。どうしてサタンが聖霊の集まりに来て、神さまとこんな会話なんかしているんだろう?って(前にも出てきたよね、主語が神だったりサタンだったり、とか)。少なくとも旧約聖書の世界では、サタンは天使の一人で、主に人に試練を与える存在として描かれているんだけど、一般通念に敵対するという見方から、「敵」「反対する事」を意味する言葉(ヘブライ語 satan またはアラム語 satana )がその名になったというわけ。

事の起こり

ウツの地にヨブという人がいた。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きていた。七人の息子と三人の娘を持ち、羊七千匹、らくだ三千頭、牛五百くびき、雌ろば五百頭の財産があり、使用人も非常に多かった。彼は東の国一番の富豪であった。
息子たちはそれぞれ順番に、自分の家で宴会の用意をし、三人の姉妹も招いて食事をすることにしていた。この宴会が一巡りするごとに、ヨブは息子たちを呼び寄せて聖別し、朝早くから彼らの数に相当するいけにえをささげた。「息子たちが罪を犯し、心の中で神を呪ったかもしれない」と思ったからである。ヨブはいつもこのようにした。
ある日、主の前に神の使いたちが集まり、サタンも来た。主はサタンに言われた。
「お前はどこから来た。」
「地上を巡回しておりました。ほうぼうを歩きまわっていました」とサタンは答えた。
主はサタンに言われた。
「お前はわたしの僕ヨブに気づいたか。地上に彼ほどの者はいまい。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きている。」
サタンは答えた。
「ヨブが、利益もないのに神を敬うでしょうか。あなたは彼とその一族、全財産を守っておられるではありませんか。彼の手の業をすべて祝福なさいます。お陰で、彼の家畜はその地に溢れるほどです。ひとつこの辺で、御手を伸ばして彼の財産に触れてごらんなさい。面と向かってあなたを呪うにちがいありません。」
主はサタンに言われた。
「それでは、彼のものを一切、お前のいいようにしてみるがよい。ただし彼には、手を出すな。」
サタンは主のもとから出て行った。
ヨブの息子、娘が、長兄の家で宴会を開いていた日のことである。ヨブのもとに、一人の召使いが報告に来た。
「御報告いたします。わたしどもが、牛に畑を耕させ、その傍らでろばに草を食べさせておりますと、シェバ人が襲いかかり、略奪していきました。牧童たちは切り殺され、わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
彼が話し終らないうちに、また一人が来て言った。
「御報告いたします。天から神の火が降って、羊も羊飼いも焼け死んでしまいました。わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
彼が話し終らないうちに、また一人来て言った。
「御報告いたします。カルデア人が三部隊に分かれてらくだの群れを襲い、奪っていきました。牧童たちは切り殺され、わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
彼が話し終らないうちに、更にもう一人来て言った。
「御報告いたします。御長男のお宅で、御子息、御息女の皆様が宴会を開いておられました。すると、荒れ野の方から大風が来て四方から吹きつけ、家は倒れ、若い方々は死んでしまわれました。わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
ヨブは立ち上がり、衣を裂き、髪をそり落とし、地にひれ伏して言った。
「わたしは裸で母の胎を出た。
裸でそこに帰ろう。
主は与え、主は奪う。
主の御名はほめたたえられよ。」
このような時にも、ヨブは神を非難することなく、罪を犯さなかった。

またある日、主の前に神の使いたちが集まり、サタンも来て、主の前に進み出た。主はサタンに言われた。
「お前はどこから来た。」
「地上を巡回しておりました。ほうぼうを歩きまわっていました」とサタンは答えた。
主はサタンに言われた。
「お前はわたしの僕ヨブに気づいたか。地上に彼ほどの者はいまい。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きている。お前は理由もなく、わたしを唆して彼を破滅させようとしたが、彼はどこまでも無垢だ。」
サタンは答えた。
「皮には皮を、と申します。まして命のためには全財産を差し出すものです。手を伸ばして彼の骨と肉に触れてごらんなさい。面と向かってあなたを呪うにちがいありません。」
主はサタンに言われた。
「それでは、彼をお前のいいようにするがよい。ただし、命だけは奪うな。」
サタンは主の前から出て行った。サタンはヨブに手を下し、頭のてっぺんから足の裏までひどい皮膚病にかからせた。ヨブは灰の中に座り、素焼きのかけらで体中をかきむしった。
彼の妻は、
「どこまでも無垢でいるのですか。神を呪って、死ぬ方がましでしょう」と言ったが、ヨブは答えた。
「お前まで愚かなことを言うのか。わたしたちは、神から幸福をいただいたのだから、不幸もいただこうではないか。」
このようになっても、彼は唇をもって罪を犯すことをしなかった。
さて、ヨブと親しいテマン人エリファズ、シュア人ビルダド、ナアマ人ツォファルの三人は、ヨブにふりかかった災難の一部始終を聞くと、見舞い慰めようと相談して、それぞれの国からやって来た。遠くからヨブを見ると、それと見分けられないほどの姿になっていたので、嘆きの声をあげ、衣を裂き、天に向かって塵を振りまき、頭にかぶった。彼らは七日七晩、ヨブと共に地面に座っていたが、その激しい苦痛を見ると、話しかけることもできなかった。

ヨブの嘆き

やがてヨブは口を開き、自分の生まれた日を呪って、言った。
ヨブ記 1:1-3:2

(編者註:)……そして、ケンが言う「聖書のなかでいちばん辛辣で、シニカルで、手厳しい神様への罵倒」のつぶやきが始まるわけ。

 だからわたしは言う、同じことなのだ、と
 神は無垢な者も逆らう者も
     同じように滅ぼし尽くされる、と。
 罪もないのに、突然、鞭打たれ
     殺される人の絶望を神は嘲笑う。
 この地は神に逆らう者の手にゆだねられている。
 神がその裁判官の顔を覆われたのだ。
 ちがうというなら、誰がそうしたのか。
ヨブ記 9:22-24
 町では、死にゆく人々が呻き
 刺し貫かれた人々があえいでいるが
 神はその惨状に心を留めてくださらない。
ヨブ記 24:12
 なぜ、神に逆らう者が生き永らえ
 年を重ねてなお、力を増し加えるのか。
 子孫は彼らを囲んで確かに続き
 その末を目の前に見ることができる。
 その家は平和で、何の恐れもなく
 神の鞭が彼らに下ることはない。
 彼らの雄牛は常に子をはらませ
 雌牛は子を産んで、死なせることはない。
 彼らは羊の群れのように子供を送り出し
 その子らは踊り跳ね
 太鼓や竪琴に合わせて歌い
 笛を吹いて楽しむ。
 彼らは幸せに人生を送り
 安らかに陰府に赴く。
 彼らは神に向かって言う。
 「ほうっておいてください。
 あなたに従う道など知りたくもない。
 なぜ、全能者に仕えなければならないのか。
 神に祈って何になるのか。」
 だが、彼らは財産を手にしているではないか。
 神に逆らう者の考えはわたしから遠い。

 神に逆らう者の灯が消され、災いが襲い
 神が怒って破滅を下したことが何度あろうか。
 藁のように風に吹き散らされ
 もみ殻のように
     突風に吹き飛ばされたことがあろうか。
 神は彼への罰を
     その子らの代にまで延ばしておかれるのか。
 彼自身を罰して
     思い知らせてくださればよいのに。
 自分の目で自分の不幸を見
 全能者の怒りを飲み干せばよいのだ。
 人生の年月が尽きてしまえば
 残された家はどうなってもよいのだから。
ヨブ記 21:7-21
 お前は神に劣らぬ腕をもち
 神のような声をもって雷鳴をとどろかせるのか。
ヨブ記 40:9
 ヨブは主に答えて言った。

 あなたは全能であり
 御旨の成就を妨げることはできないと悟りました。
 「これは何者か。知識もないのに
 神の経綸を隠そうとするとは。」
 そのとおりです。
 わたしには理解できず、わたしの知識を超えた
 驚くべき御業をあげつらっておりました。
 「聞け、わたしが話す。
 お前に尋ねる、わたしに答えてみよ。」
 あなたのことを、耳にしてはおりました。
 しかし今、この目であなたを仰ぎ見ます。
 それゆえ、わたしは塵と灰の上に伏し
 自分を退け、悔い改めます。
ヨブ記 42:1-6
ヨブが友人たちのために祈ったとき、主はヨブを元の境遇に戻し、更に財産を二倍にされた。兄弟姉妹、かつての知人たちがこぞって彼のもとを訪れ、食事を共にし、主が下されたすべての災いについていたわり慰め、それぞれ銀一ケシタと金の環一つを贈った。
主はその後のヨブを以前にも増して祝福された。ヨブは、羊一万四千匹、らくだ六千頭、牛一千くびき、雌ろば一千頭を持つことになった。彼はまた七人の息子と三人の娘をもうけ、長女をエミマ、次女をケツィア、三女をケレン・プクと名付けた。ヨブの娘たちのように美しい娘は国中どこにもいなかった。彼女らもその兄弟と共に父の財産の分け前を受けた。
ヨブはその後百四十年生き、子、孫、四代の先まで見ることができた。ヨブは長寿を保ち、老いて死んだ。
ヨブ記 42:10-17
 そして、人間に言われた。
 「主を畏れ敬うこと、それが知恵
 悪を遠ざけること、それが分別。」
ヨブ記 28:28

(編者註:)神さまのヨブに対する非難を見てみよう。

 主は嵐の中からヨブに答えて仰せになった。

 男らしく、腰に帯をせよ。
 お前に尋ねる。わたしに答えてみよ。
 お前はわたしが定めたことを否定し
 自分を無罪とするために
     わたしを有罪とさえするのか。
 お前は神に劣らぬ腕をもち
 神のような声をもって雷鳴をとどろかせるのか。
 威厳と誇りで身を飾り
 栄えと輝きで身を装うがよい。
 怒って猛威を振るい
 すべて驕り高ぶる者を見れば、これを低くし
 すべて驕り高ぶる者を見れば、これを挫き
 神に逆らう者を打ち倒し
 ひとり残らず塵に葬り去り
 顔を包んで墓穴に置くがよい。
 そのとき初めて、わたしはお前をたたえよう。
 お前が自分の右の手で
     勝利を得たことになるのだから。
ヨブ記 40:6-14

(編者註:)まあ、この辺まではいいんだよね。この後からおかしくなってくる。

 見よ、ベヘモットを。
 お前を造ったわたしはこの獣をも造った。
 これは牛のように草を食べる。
 見よ、腰の力と腹筋の勢いを。
 尾は杉の枝のようにたわみ
 腿の筋は固く絡み合っている。
 骨は青銅の管
 骨組みは鋼鉄の棒を組み合わせたようだ。
 これこそ神の傑作
 造り主をおいて剣をそれに突きつける者はない。
 山々は彼に食べ物を与える。
 野のすべての獣は彼に戯れる。
 彼がそてつの木の下や
 浅瀬の葦の茂みに伏せると
 そてつの影は彼を覆い
 川辺の柳は彼を包む。
 川が押し流そうとしても、彼は動じない。
 ヨルダンが口に流れ込んでも、ひるまない。
 まともに捕えたり
 罠にかけてその鼻を貫きうるものがあろうか。

 お前はレビヤタンを鉤にかけて引き上げ
 その舌を縄で捕えて
     屈服させることができるか。
 お前はその鼻に綱をつけ
 顎を貫いてくつわをかけることができるか。
 彼がお前に繰り返し憐れみを乞い
 丁重に話したりするだろうか。
 彼がお前と契約を結び
 永久にお前の僕となったりするだろうか。
 お前は彼を小鳥のようにもてあそび
 娘たちのためにつないでおくことができるか。
 お前の仲間は彼を取り引きにかけ
 商人たちに切り売りすることができるか。
 お前はもりで彼の皮を
 やすで頭を傷だらけにすることができるか。
 彼の上に手を置いてみよ。
 戦うなどとは二度と言わぬがよい。
ヨブ記 40:15-32

(編者註:)そして、先の ヨブ記 42:5-6 のくだりに至るというわけ。

 太陽の輝き、満ち欠ける月を仰いで
 ひそかに心を迷わせ
 口づけを投げたことは、決してない。
 もしあるというなら
 これもまた、裁かれるべき罪である。
 天にいます神を否んだことになるのだから。
ヨブ記 31:26-28
賛美。ダビデの詩。

 わたしの王、神よ、あなたをあがめ
 世々限りなく御名をたたえます。
 絶えることなくあなたをたたえ
 世々限りなく御名を賛美します。
 大いなる主、限りなく賛美される主
 大きな御業は究めることもできません。
 人々が、代々に御業をほめたたえ
 力強い御業を告げ知らせますように。
 あなたの輝き、栄光と威光
 驚くべき御業の数々をわたしは歌います。
 人々が恐るべき御力について語りますように。
 大きな御業をわたしは数え上げます。
 人々が深い御恵みを語り継いで記念とし
 救いの御業を喜び歌いますように。
 主は恵みに富み、憐れみ深く
 忍耐強く、慈しみに満ちておられます。
 主はすべてのものに恵みを与え
 造られたすべてのものを憐れんでくださいます。

 主よ、造られたものがすべて、あなたに感謝し
 あなたの慈しみに生きる人があなたをたたえ
 あなたの主権の栄光を告げ
 力強い御業について語りますように。
 その力強い御業と栄光を
 主権の輝きを、人の子らに示しますように。
 あなたの主権はとこしえの主権
 あなたの統治は代々に。
 主は倒れようとする人をひとりひとり支え
 うずくまっている人を起こしてくださいます。
 ものみながあなたに目を注いで待ち望むと
 あなたはときに応じて食べ物をくださいます。
 すべて命あるものに向かって御手を開き
 望みを満足させてくださいます。

 主の道はことごとく正しく
 御業は慈しみを示しています。
 主を呼ぶ人すべてに近くいまし
 まことをもって呼ぶ人すべてに近くいまし
 主を畏れる人々の望みをかなえ
 叫びを聞いて救ってくださいます。
 主を愛する人は主に守られ
 主に逆らう者はことごとく滅ぼされます。
 わたしの口は主を賛美します。すべて肉なるものは
 世々限りなく聖なる御名をたたえます。
詩篇 145
ダビデの詩。

 主をたたえよ、わたしの岩を
 わたしの手に闘うすべを
 指に戦するすべを教えてくださる方を
 わたしの支え、わたしの砦、砦の塔
 わたしの逃れ場、わたしの盾、避けどころ
 諸国の民をわたしに服従させてくださる方を。
 
 主よ、人間とは何ものなのでしょう
     あなたがこれに親しまれるとは。
 人の子とは何ものなのでしょう
     あなたが思いやってくださるとは。
 人間は息にも似たもの
 彼の日々は消え去る影。

 主よ、天を傾けて降り
 山々に触れ、これに煙を上げさせてください。
 飛び交う稲妻
 うなりを上げる矢を放ってください。
 高い天から御手を遣わしてわたしを解き放ち
 大水から、異邦人の手から助け出してください。
 彼らの口はむなしいことを語り
 彼らの右の手は欺きを行う右の手です。
 
 神よ、あなたに向かって新しい歌をうたい
 十弦の琴をもってほめ歌をうたいます。
 あなたは王たちを救い
 僕ダビデを災いの剣から解き放ってくださいます。
 わたしを解き放ち
 異邦人の手から助け出してください。
 彼らの口はむなしいことを語り
 彼らの右の手は欺きを行う右の手です。

     わたしたちの息子は皆
         幼いときから大事に育てられた苗木。
     娘は皆、宮殿の飾りにも似た
         色とりどりの彫り物。
     わたしたちの倉は
         さまざまな穀物で満たされている。
     羊の群れは野に、幾千幾万を数え
     牛はすべて、肥えている。
     わたしたちの都の広場には
         破れも捕囚も叫び声もない。

 いかに幸いなことか、このような民は。
 いかに幸いなことか
 主を神といただく民は。
詩篇 144
賛歌。ダビデの詩。

 主は羊飼い、わたしには何も欠けることがない。
 主はわたしを青草の原に休ませ
 憩いの水のほとりに伴い
 魂を生き返らせてくださる。

 主は御名にふさわしく
     わたしを正しい道に導かれる。
 死の陰の谷を行くときも
     わたしは災いを恐れない。
 あなたがわたしと共にいてくださる。
 あなたの鞭、あなたの杖
 それがわたしを力づける。

 わたしを苦しめる者を前にしても
 あなたはわたしに食卓を整えてくださる。
 わたしの頭に香油を注ぎ
 わたしの杯を溢れさせてくださる。

 命のある限り
 恵みと慈しみはいつもわたしを追う。
 主の家にわたしは帰り
 生涯、そこにとどまるであろう。
詩篇 23
指揮者によって。コラの子の詩。マスキール。

 神よ、我らはこの耳で聞いています
 先祖が我らに語り伝えたことを
 先祖の時代、いにしえの日に
     あなたが成し遂げられた御業を。
 我らの先祖を植え付けるために
     御手をもって国々の領土を取り上げ
 その枝が伸びるために
     国々の民を災いに落としたのはあなたでした。
 先祖が自分の剣によって領土を取ったのでも
 自分の腕の力によって勝利を得たのでもなく
 あなたの右の御手、あなたの御腕
 あなたの御顔の光によるものでした。
 これがあなたのお望みでした。

 神よ、あなたこそわたしの王。
 ヤコブが勝利を得るように定めてください。
 あなたに頼って敵を攻め
 我らに立ち向かう者を
     御名に頼って踏みにじらせてください。
 わたしが依り頼むのは自分の弓ではありません。
 自分の剣によって勝利を得ようともしていません。
 我らを敵に勝たせ
 我らを憎む者を恥に落とすのは、あなたです。
 我らは絶えることなく神を賛美し
 とこしえに、御名に感謝をささげます。〔セラ

 しかし、あなたは我らを見放されました。
 我らを辱めに遭わせ、もはや共に出陣なさらず
 我らが敵から敗走するままになさったので
 我らを憎む者は略奪をほしいままにしたのです。
 あなたは我らを食い尽くされる羊として
 国々の中に散らされました。
 御自分の民を、僅かの値で売り渡し
 その価を高くしようともなさいませんでした。
 我らを隣の国々の嘲りの的とし
 周囲の民が嘲笑い、そしるにまかせ
 我らを国々の嘲りの歌とし
 多くの民が頭を振って侮るにまかせられました。
 辱めは絶えることなくわたしの前にあり
 わたしの顔は恥に覆われています。
 嘲る声、ののしる声がします。
 報復しようとする敵がいます。

 これらのことがすべてふりかかっても
 なお、我らは決してあなたを忘れることなく
 あなたとの契約をむなしいものとせず
 我らの心はあなたを裏切らず
 あなたの道をそれて歩もうとはしませんでした。

 あなたはそれでも我らを打ちのめし
     山犬の住みかに捨て
 死の陰で覆ってしまわれました。
 このような我らが、我らの神の御名を忘れ去り
 異教の神に向かって
     手を広げるようなことがあれば
 神はなお、それを探り出されます。
 心に隠していることを神は必ず知られます。
 我らはあなたゆえに、絶えることなく
     殺される者となり
 屠るための羊と見なされています。

 主よ、奮い立ってください。
 なぜ、眠っておられるのですか。
 永久に我らを突き放しておくことなく
 目覚めてください。
 なぜ、御顔を隠しておられるのですか。
 我らが貧しく、虐げられていることを
     忘れてしまわれたのですか。
 我らの魂は塵に伏し
 腹は地に着いたままです。
 立ち上がって、我らをお助けください。
 我らを贖い、あなたの慈しみを表してください。
詩篇 44
賛歌。アサフの詩。

 神よ、異国の民があなたの嗣業を襲い
 あなたの聖なる神殿を汚し
 エルサレムを瓦礫の山としました。
 あなたの僕らの死体を空の鳥の餌とし
 あなたの慈しみに生きた人々の肉を
     地の獣らの餌としました。
 彼らは、エルサレムの周囲に
     この人々の血を水のように流します。
 葬る者もありません。
 わたしたちは近隣の民に辱められ
 周囲の民に嘲られ、そしられています。
 主よ、いつまで続くのでしょう。
 あなたは永久に憤っておられるのでしょうか。
 あなたの激情は火と燃え続けるのでしょうか。

 御怒りを注いでください
     あなたを知ろうとしない異国の民の上に
 あなたの御名を呼び求めない国々の上に。
 彼らはヤコブを食いものにし
 その住みかを荒廃させました。

 どうか、わたしたちの昔の悪に御心を留めず
 御憐れみを速やかに差し向けてください。
 わたしたちは弱り果てました。
 わたしたちの救いの神よ、わたしたちを助けて
     あなたの御名の栄光を輝かせてください。
 御名のために、わたしたちを救い出し
     わたしたちの罪をお赦しください。
 どうして異国の民に言わせてよいでしょうか
 「彼らの神はどこにいる」と。
 あなたの僕らの注ぎ出された血に対する報復を
 異国の民の中で、わたしたちが
     目の前に見ることができますように。
 捕われ人の嘆きが御前に届きますように。
 御腕の力にふさわしく
 死に定められている人々を
     生き長らえさせてください。

 主よ、近隣の民のふところに
 あなたを辱めた彼らの辱めを
     七倍にして返してください。
 わたしたちはあなたの民
 あなたに養われる羊の群れ。
 とこしえに、あなたに感謝をささげ
 代々に、あなたの栄誉を語り伝えます。
詩篇 79
歌。賛歌。アサフの詩。

 神よ、沈黙しないでください。
 黙していないでください。
 静まっていないでください。
 御覧ください、敵が騒ぎ立っています。
 あなたを憎む者は頭を上げています。
 あなたの民に対して巧みな謀をめぐらし
 あなたの秘蔵の民に対して共謀しています。
 彼らは言います
 「あの民を国々の間から断とう。
 イスラエルの名が
     再び思い起こされることのないように」と。

 彼らは心をひとつにして謀り
 あなたに逆らって、同盟を結んでいます。
 天幕に住むエドム人
 イシュマエル人、モアブ、ハガル人。
 ゲバル、アンモン、アマレク
 ペリシテとティルスの住民。
 アッシリアもそれに加わり
 ロトの子らに腕を貸しています。〔セラ

 これらの民に対しても、なさってください
 あなたが、かつてミディアンになさったように
 キション川のほとりで
     シセラとヤビンになさったように。
 エン・ドルで彼らは滅ぼされ
 大地の肥やしとされました。
 これらの民の貴族をオレブとゼエブのように
 王侯らをゼバとツァルムナのようにしてください。
 彼らは言います
 「神の住まいを我らのものにしよう」と。

 わたしの神よ、彼らを車の輪のように
 風に巻かれる藁のようにしてください。
 火の手が林を焼くように
 炎が山々をなめるように
 あなたの嵐によって彼らを追い
 あなたのつむじ風によって恐れさせてください。
 彼らの顔が侮りで覆われるなら
 彼らは主の御名を求めるようになるでしょう。
 彼らが永久に恥じ、恐れ
 嘲りを受けて、滅びますように。
 彼らが悟りますように
 あなたの御名は主
 ただひとり
     全地を超えて、いと高き神であることを。
詩篇 83
指揮者によって。ダビデの詩。賛歌。

 わたしの賛美する神よ
 どうか、黙していないでください。
 神に逆らう者の口が
 欺いて語る口が、わたしに向かって開き
 偽りを言う舌がわたしに語りかけます。
 憎しみの言葉はわたしを取り囲み
 理由もなく戦いを挑んで来ます。
 愛しても敵意を返し
 わたしが祈りをささげても
 その善意に対して悪意を返します。
 愛しても、憎みます。

 彼に対して逆らう者を置き
 彼の右には敵対者を立たせてください。
 裁かれて、神に逆らう者とされますように。
 祈っても、罪に定められますように。

     彼の生涯は短くされ
     地位は他人に取り上げられ
     子らはみなしごとなり
     妻はやもめとなるがよい。
     子らは放浪して物乞いをするがよい。
     廃虚となったその家を離れ
     助けを求め歩くがよい。
     彼のものは一切、債権者に奪われ
     働きの実りは他国人に略奪されるように。
     慈しみを示し続ける者もいなくなり
     みなしごとなった彼の子らを
     憐れむ者もなくなるように。
     子孫は断たれ
     次の代には彼らの名も消されるように。
     主が彼の父祖の悪をお忘れにならぬように。
     母の罪も消されることのないように。
     その悪と罪は常に主の御前にとどめられ
     その名は地上から断たれるように。

     彼は慈しみの業を行うことに心を留めず
     貧しく乏しい人々
     心の挫けた人々を死に追いやった。
     彼は呪うことを好んだのだから
     呪いは彼自身に返るように。
     祝福することを望まなかったのだから
     祝福は彼を遠ざかるように。
     呪いを衣として身にまとうがよい。
     呪いが水のように彼のはらわたに
     油のように彼の骨に染み通るように。
     呪いが彼のまとう衣となり
     常に締める帯となるように。
     わたしに敵意を抱く者に対して
     わたしの魂をさいなもうと語る者に対して
         主はこのように報いられる。

 主よ、わたしの神よ
 御名のために、わたしに計らい
 恵み深く、慈しみによって
 わたしを助けてください。
 わたしは貧しく乏しいのです。
 胸の奥で心は貫かれています。
 移ろい行く影のようにわたしは去ります。
 いなごのように払い落とされます。
 断食して膝は弱くなり
 からだは脂肪を失い、衰えて行きます。
 わたしは人間の恥。
 彼らはわたしを見て頭を振ります。
 わたしの神、主よ、わたしを助けてください。
 慈しみによってお救いください。
 それが御手によることを、御計らいであることを
 主よ、人々は知るでしょう。
 彼らは呪いますが
 あなたは祝福してくださいます。
 彼らは反逆し、恥に落とされますが
 あなたの僕は喜び祝います。
 わたしに敵意を抱く者は辱めを衣とし
 恥を上着としてまとうでしょう。
 わたしはこの口をもって
     主に尽きぬ感謝をささげ
 多くの人の中で主を賛美します。
 主は乏しい人の右に立ち
 死に定める裁きから救ってくださいます。
詩篇 109
指揮者によって。主の僕の詩。ダビデの詩。主がダビデをすべての敵の手、また、サウルの手から救い出されたとき、彼はこの歌の言葉を主に述べた。

 主よ、わたしの力よ、わたしはあなたを慕う。
 主はわたしの岩、砦、逃れ場
 わたしの神、大岩、避けどころ
 わたしの盾、救いの角、砦の塔。
 ほむべき方、主をわたしは呼び求め
 敵から救われる。

 死の縄がからみつき
 奈落の激流がわたしをおののかせ
 陰府の縄がめぐり
 死の網が仕掛けられている。
 苦難の中から主を呼び求め
 わたしの神に向かって叫ぶと
 その声は神殿に響き
 叫びは御前に至り、御耳に届く。

 主の怒りは燃え上がり、地は揺れ動く。
 山々の基は震え、揺らぐ。
 御怒りに煙は噴き上がり
 御口の火は焼き尽くし、炎となって燃えさかる。
 主は天を傾けて降り
 密雲を足もとに従え
 ケルブを駆って飛び
 風の翼に乗って行かれる。
 周りに闇を置いて隠れがとし
 暗い雨雲、立ちこめる霧を幕屋とされる。
 御前にひらめく光に雲は従い
 雹と火の雨が続く。
 主は天から雷鳴をとどろかせ
 いと高き神は御声をあげられ
 雹と火の雨が続く。
 主の矢は飛び交い
 稲妻は散乱する。
 主よ、あなたの叱咤に海の底は姿を現し
 あなたの怒りの息に世界はその基を示す。

 主は高い天から御手を遣わしてわたしをとらえ
 大水の中から引き上げてくださる。
 敵は力があり
 わたしを憎む者は勝ち誇っているが
 なお、主はわたしを救い出される。
 彼らが攻め寄せる災いの日
 主はわたしの支えとなり
 わたしを広い所に導き出し、助けとなり
 喜び迎えてくださる。
 主はわたしの正しさに報いてくださる。
 わたしの手の清さに応じて返してくださる。
 わたしは主の道を守り
 わたしの神に背かない。
 わたしは主の裁きをすべて前に置き
 主の掟を遠ざけない。
 わたしは主に対して無垢であろうとし
 罪から身を守る。
 主はわたしの正しさに応じて返してくださる。
 御目に対してわたしの手は清い。

 あなたの慈しみに生きる人に
     あなたは慈しみを示し
 無垢な人には無垢に
 清い人には清くふるまい
 心の曲がった者には背を向けられる。
 あなたは貧しい民を救い上げ
 高ぶる目を引き下ろされる。
 主よ、あなたはわたしの灯を輝かし
 神よ、あなたはわたしの闇を照らしてくださる。
 あなたによって、わたしは敵軍を追い散らし
 わたしの神によって、城壁を越える。
 神の道は完全
 主の仰せは火で練り清められている。
 すべて御もとに身を寄せる人に
     主は盾となってくださる。

 主のほかに神はない。
 神のほかに我らの岩はない。
 神はわたしに力を帯びさせ
 わたしの道を完全にし
 わたしの足を鹿のように速くし
 高い所に立たせ
 手に戦いの技を教え
 腕に青銅の弓を引く力を帯びさせてくださる。
 
 あなたは救いの盾をわたしに授け
 右の御手で支えてくださる。
 あなたは、自ら降り
     わたしを強い者としてくださる。
 わたしの足は大きく踏み出し
 くるぶしはよろめくことがない。
 敵を追い、敵に追いつき
 滅ぼすまで引き返さず
 彼らを打ち、再び立つことを許さない。
 彼らはわたしの足もとに倒れ伏す。
 あなたは戦う力をわたしの身に帯びさせ
 刃向かう者を屈服させ
 敵の首筋を踏ませてくださる。
 わたしを憎む者をわたしは滅ぼす。
 彼らは叫ぶが、助ける者は現れず
 主に向かって叫んでも答えはない。
 わたしは彼らを風の前の塵と見なし
 野の土くれのようにむなしいものとする。
 あなたはわたしを民の争いから解き放ち
 国々の頭としてくださる。
 わたしの知らぬ民もわたしに仕え
 わたしのことを耳にしてわたしに聞き従い
 敵の民は憐れみを乞う。
 敵の民は力を失い、おののいて砦を出る。

 主は命の神。
 わたしの岩をたたえよ。
 わたしの救いの神をあがめよ。
 わたしのために報復してくださる神よ
 諸国の民をわたしに従わせてください。
 敵からわたしを救い
 刃向かう者よりも高く上げ
 不法の者から助け出してください。
 主よ、国々の中で
     わたしはあなたに感謝をささげ
 御名をほめ歌う。
 主は勝利を与えて王を大いなる者とし
 油注がれた人を、ダビデとその子孫を
 とこしえまで
     慈しみのうちにおかれる。
詩篇 18
マスキール。アサフの詩。

 神よ、なぜあなたは
 養っておられた羊の群れに怒りの煙をはき
 永遠に突き放してしまわれたのですか。
 どうか、御心に留めてください
 すでにいにしえから御自分のものとし
 御自分の嗣業の部族として贖われた会衆を
 あなたのいます所であったこのシオンの山を。
 永遠の廃虚となったところに足を向けてください。
 敵は聖所のすべてに災いをもたらしました。
 あなたに刃向かう者は、至聖所の中でほえ猛り
 自分たちのしるしをしるしとして立てました。
 彼らが木の茂みの中を
     斧を携えて上るのが見えると
 ただちに手斧、まさかりを振るって
 彫り物の飾りをすべて打ち壊し
 あなたの聖所に火をかけ
 御名の置かれた所を地に引き倒して汚しました。
 「すべて弾圧せねばならない」と心に言って
 この地にある神の会堂をすべて焼き払いました。

 わたしたちのためのしるしは見えません。
 今は預言者もいません。
 いつまで続くのかを知る者もありません。
 神よ、刃向かう者はいつまで嘲るのでしょうか。
 敵は永久にあなたの御名を侮るのでしょうか。
 なぜ、手を引いてしまわれたのですか
 右の御手は、ふところに入れられたまま。

 しかし神よ、いにしえよりのわたしの王よ
 この地に救いの御業を果たされる方よ。
 あなたは、御力をもって海を分け
 大水の上で竜の頭を砕かれました。
 レビヤタンの頭を打ち砕き
 それを砂漠の民の食糧とされたのもあなたです。
 あなたは、泉や川を開かれましたが
 絶えることのない大河の水を涸らされました。
 あなたは、太陽と光を放つ物を備えられました。
 昼はあなたのもの、そして夜もあなたのものです。
 あなたは、地の境をことごとく定められました。
 夏と冬を造られたのもあなたです。
 
 主よ、御心に留めてください、敵が嘲るのを
 神を知らぬ民があなたの御名を侮るのを。
 あなたの鳩の魂を獣に渡さないでください。あなたの貧しい人々の命を
     永遠に忘れ去らないでください。
 契約を顧みてください。地の暗い隅々には
     不法の住みかがひしめいています。
 どうか、虐げられた人が再び辱められることなく
 貧しい人、乏しい人が
     御名を賛美することができますように。

 神よ、立ち上がり
     御自分のために争ってください。神を知らぬ者が絶えずあなたを嘲っているのを
     御心に留めてください。
 あなたに刃向かう者のあげる声
 あなたに立ち向かう者の常に起こす騒ぎを
     どうか、決して忘れないでください。
詩篇 74
歌。賛歌。コラの子の詩。指揮者によって。マハラトに合わせて。レアノト。マスキール。エズラ人ヘマンの詩。

 主よ、わたしを救ってくださる神よ
 昼は、助けを求めて叫び
 夜も、御前におります。
 わたしの祈りが御もとに届きますように。
 わたしの声に耳を傾けてください。
 
 わたしの魂は苦難を味わい尽くし
 命は陰府にのぞんでいます。
 穴に下る者のうちに数えられ
 力を失った者とされ
 汚れた者と見なされ
 死人のうちに放たれて
 墓に横たわる者となりました。
 あなたはこのような者に心を留められません。
 彼らは御手から切り離されています。
 あなたは地の底の穴にわたしを置かれます
 影に閉ざされた所、暗闇の地に。
 あなたの憤りがわたしを押さえつけ
 あなたの起こす波がわたしを苦しめます。〔セラ

 あなたはわたしから
     親しい者を遠ざけられました。
 彼らにとってわたしは忌むべき者となりました。
 わたしは閉じ込められて、出られません。
 苦悩に目は衰え
 来る日も来る日も、主よ、あなたを呼び
 あなたに向かって手を広げています。
 あなたが死者に対して驚くべき御業をなさったり
 死霊が起き上がって
 あなたに
     感謝したりすることがあるでしょうか。〔セラ
 墓の中であなたの慈しみが
 滅びの国であなたのまことが
     語られたりするでしょうか。
 闇の中で驚くべき御業が
 忘却の地で恵みの御業が
     告げ知らされたりするでしょうか。

 主よ、わたしはあなたに叫びます。
 朝ごとに祈りは御前に向かいます。
 主よ、なぜわたしの魂を突き放し
 なぜ御顔をわたしに隠しておられるのですか。
 わたしは若い時から苦しんで来ました。
 今は、死を待ちます。
 あなたの怒りを身に負い、絶えようとしています。
 あなたの憤りがわたしを圧倒し
 あなたを恐れてわたしは滅びます。
 それは大水のように
     絶え間なくわたしの周りに渦巻き
 いっせいに襲いかかります。
 愛する者も友も
     あなたはわたしから遠ざけてしまわれました。
 今、わたしに親しいのは暗闇だけです。
詩篇 88
指揮者によって。「暁の雌鹿」に合わせて。賛歌。ダビデの詩。

 わたしの神よ、わたしの神よ
 なぜわたしをお見捨てになるのか。
 なぜわたしを遠く離れ、救おうとせず
 呻きも言葉も聞いてくださらないのか。
 わたしの神よ
 昼は、呼び求めても答えてくださらない。
 夜も、黙ることをお許しにならない。

 だがあなたは、聖所にいまし
 イスラエルの賛美を受ける方。
 わたしたちの先祖はあなたに依り頼み
 依り頼んで、救われて来た。
 助けを求めてあなたに叫び、救い出され
 あなたに依り頼んで、裏切られたことはない。

 わたしは虫けら、とても人とはいえない。
 人間の屑、民の恥。
 わたしを見る人は皆、わたしを嘲笑い
 唇を突き出し、頭を振る。
 「主に頼んで救ってもらうがよい。
 主が愛しておられるなら
     助けてくださるだろう。」

 わたしを母の胎から取り出し
 その乳房にゆだねてくださったのはあなたです。
 母がわたしをみごもったときから
     わたしはあなたにすがってきました。
 母の胎にあるときから、あなたはわたしの神。
 わたしを遠く離れないでください
 苦難が近づき、助けてくれる者はいないのです。

 雄牛が群がってわたしを囲み
 バシャンの猛牛がわたしに迫る。
 餌食を前にした獅子のようにうなり
 牙をむいてわたしに襲いかかる者がいる。
 わたしは水となって注ぎ出され
 骨はことごとくはずれ
 心は胸の中で蝋のように溶ける。
 口は渇いて素焼きのかけらとなり
 舌は上顎にはり付く。
 あなたはわたしを塵と死の中に打ち捨てられる。

 犬どもがわたしを取り囲み
 さいなむ者が群がってわたしを囲み
     獅子のようにわたしの手足を砕く。
 骨が数えられる程になったわたしのからだを
     彼らはさらしものにして眺め
 わたしの着物を分け
 衣を取ろうとしてくじを引く。

 主よ、あなただけは
     わたしを遠く離れないでください。
 わたしの力の神よ
     今すぐにわたしを助けてください。
 わたしの魂を剣から救い出し
 わたしの身を犬どもから救い出してください。
 獅子の口、雄牛の角からわたしを救い
 わたしに答えてください。

 わたしは兄弟たちに御名を語り伝え
 集会の中であなたを賛美します。
 主を畏れる人々よ、主を賛美せよ。
 ヤコブの子孫は皆、主に栄光を帰せよ。
 イスラエルの子孫は皆、主を恐れよ。

 主は貧しい人の苦しみを
     決して侮らず、さげすまれません。
 御顔を隠すことなく
 助けを求める叫びを聞いてくださいます。
 それゆえ、わたしは大いなる集会で
     あなたに賛美をささげ
 神を畏れる人々の前で満願の献げ物をささげます。
 貧しい人は食べて満ち足り
 主を尋ね求める人は主を賛美します。
 いつまでも健やかな命が与えられますように。

 地の果てまで
     すべての人が主を認め、御もとに立ち帰り
 国々の民が御前にひれ伏しますように。
 王権は主にあり、主は国々を治められます。
 命に溢れてこの地に住む者はことごとく
     主にひれ伏し
 塵に下った者もすべて御前に身を屈めます。

 わたしの魂は必ず命を得
 子孫は神に仕え
 主のことを来るべき代に語り伝え
 成し遂げてくださった恵みの御業を
     民の末に告げ知らせるでしょう。
詩篇 22
 神は必ず御自分の敵の頭を打ち
 咎のうちに歩み続ける者の
     髪に覆われた頭を打たれる。
 主は言われる。
 「バシャンの山からわたしは連れ帰ろう。海の深い底から連れ帰ろう。
 あなたは敵を打って足をその血に浸し
 あなたの犬も分け前として敵の血に舌を浸す。」
詩篇 68:22-24
 主はあなたの右に立ち
 怒りの日に諸王を撃たれる。
 主は諸国を裁き、頭となる者を撃ち
 広大な地をしかばねで覆われる。
詩篇 110:5-6
主の慈しみに生きる人の死は主の目に価高い。
詩篇 116:15
 バビロンの流れのほとりに座り
 シオンを思って、わたしたちは泣いた。
 
 竪琴は、ほとりの柳の木々に掛けた。
 わたしたちを捕囚にした民が
     歌をうたえと言うから
 わたしたちを嘲る民が、楽しもうとして
 「歌って聞かせよ、シオンの歌を」と言うから。

 どうして歌うことができようか
 主のための歌を、異教の地で。

 エルサレムよ
 もしも、わたしがあなたを忘れるなら
     わたしの右手はなえるがよい。
 わたしの舌は上顎にはり付くがよい
 もしも、あなたを思わぬときがあるなら
 もしも、エルサレムを
     わたしの最大の喜びとしないなら。

 主よ、覚えていてください
     エドムの子らを
     エルサレムのあの日を
     彼らがこう言ったのを
     「裸にせよ、裸にせよ、この都の基まで。」

 娘バビロンよ、破壊者よ
 いかに幸いなことか
 お前がわたしたちにした仕打ちを
     お前に仕返す者
 お前の幼子を捕えて岩にたたきつける者は。
詩篇 137
 愚かな息子は父の破滅。
 いさかい好きな妻は滴り続けるしずく。
箴言 19:13
 神に従う人の口は知恵を生み
 暴言をはく舌は断たれる。
箴言 10:31
 豚が鼻に金の輪を飾っている。
 美しい女に知性が欠けている。
箴言 11:22
 貧乏な者は友にさえ嫌われるが
 金持ちを愛する者は多い。
箴言 14:20
 賄賂は贈り主にとって美しい宝石。
 贈ればどこであろうと成功する。
箴言 17:8
 打って傷を与えれば悪をたしなめる。
 腹の隅々にとどくように打て。
箴言 20:30
 若者の心には無知がつきもの。
 これを遠ざけるのは諭しの鞭。
箴言 22:15
 若者を諭すのを控えてはならない。
 鞭打っても、死ぬことはない。
箴言 23:13
 馬に鞭、ろばにくつわ
 愚か者の背には杖。
箴言 26:3

(編者註:) 「伝道の書」は新共同訳においては「コヘレトの言葉」という名前になっている。以下この表記を用いる。このコヘレトの言葉というのは、確かにケンの書いているように陰気だ。なにせ、最初から:

 コヘレトは言う。
 なんという空しさ
 なんという空しさ、すべては空しい。
コヘレト 1:2

こんな調子だからね。ケンが例に挙げている「(人生は)無意味で風を追うようなもの」「人は己の仕事を楽しむのがいちばんいい、それがかれの分相応というもの」に相当する部分は以下の通り。

 わたしは生きることをいとう。太陽の下に起こることは、何もかもわたしを苦しめる。どれもみな空しく、風を追うようなことだ。
コヘレト 2:17
人間にとって最も幸福なのは、自分の業によって楽しみを得ることだとわたしは悟った。それが人間にふさわしい分である。
 死後どうなるのかを、誰が見せてくれよう。
コヘレト 3:22

その他の発言。

 何もかも、もの憂い。語り尽くすこともできず
 目は見飽きることなく
 耳は聞いても満たされない。
 かつてあったことは、これからもあり
 かつて起こったことは、これからも起こる。太陽の下、新しいものは何ひとつない。
 見よ、これこそ新しい、と言ってみても
 それもまた、永遠の昔からあり
 この時代の前にもあった。
 昔のことに心を留めるものはない。これから先にあることも
 その後の世にはだれも心に留めはしまい。
コヘレト 1:8-11
 知恵が深まれば悩みも深まり
 知識が増せば痛みも増す。
コヘレト 1:18
 賢者の目はその頭に、愚者の歩みは闇に。
 しかしわたしは知っている
 両者に同じことが起こるのだということを。
コヘレト 2:14
人間に臨むことは動物にも臨み、これも死に、あれも死ぬ。同じ霊をもっているにすぎず、人間は動物に何らまさるところはない。すべては空しく、すべてはひとつのところに行く。
 すべては塵から成った。
 すべては塵に返る。
コヘレト 3:19-20
 弔いの家に行くのは
 酒宴の家に行くのにまさる。
 そこには人皆の終りがある。
 命あるものよ、心せよ。
 悩みは笑いにまさる。
 顔が曇るにつれて心は安らぐ。
コヘレト 7:2-3
 さあ、喜んであなたのパンを食べ
 気持よくあなたの酒を飲むがよい。
 あなたの業を神は受け入れていてくださる。
 どのようなときも純白の衣を着て
 頭には香油を絶やすな。
 太陽の下、与えられた空しい人生の日々
     愛する妻と共に楽しく生きるがよい。
 それが、太陽の下で労苦するあなたへの
     人生と労苦の報いなのだ。
コヘレト 9:7-9
 食事をするのは笑うため。
 酒は人生を楽しむため。
 銀はすべてにこたえてくれる。
コヘレト 10:19

(編者註:)あれ、金じゃなかったっけ?欽定訳では……

A feast is made for laughter, and wine maketh merry: but money answereth all things.
Ecclesiastes (Qoheleth) 10:19

(編者註:)なるほど、キンじゃなくてカネなのね。

 なんと空しいことか、とコヘレトは言う。
 すべては空しい、と。
コヘレト 12:8
 すべてに耳を傾けて得た結論。
 「神を畏れ、その戒めを守れ。」
 これこそ、人間のすべて。
コヘレト 12:13
 若者たちの中にいるわたしの恋しい人は
 森の中に立つりんごの木。
 わたしはその木陰を慕って座り
 甘い実を口にふくみました。
雅歌 2:3
おとめの歌

 北風よ、目覚めよ。
 南風よ、吹け。
 わたしの園を吹き抜けて
 香りを振りまいておくれ。
 恋しい人がこの園をわがものとして
 このみごとな実を食べてくださるように。
雅歌 4:16
若者の歌

 気高いおとめよ
 サンダルをはいたあなたの足は美しい。
 ふっくらとしたももは
     たくみの手に磨かれた彫り物。
 秘められたところは丸い杯
     かぐわしい酒に満ちている。
 腹はゆりに囲まれた小麦の山。
雅歌 7:1-2
 喜びに満ちた愛よ
 あなたはなんと美しく楽しいおとめか。
 あなたの立ち姿はなつめやし、乳房はその実の房。
 なつめやしの木に登り
     甘い実の房をつかんでみたい。
 わたしの願いは
     ぶどうの房のようなあなたの乳房
 りんごの香りのようなあなたの息
 うまいぶどう酒のようなあなたの口。
おとめの歌

 それはわたしの恋しい人へ滑らかに流れ
 眠っているあの人の唇に滴ります。
雅歌 7:7-10
 あなたが、わたしの母の乳房を吸った
     本当の兄だと思う人なら
 わたしをとがめたりはしないでしょう
 外であなたにお会いして
     くちづけするわたしを見ても。
 わたしを育ててくれた母の家に
     あなたをお連れして
 香り高いぶどう酒を
 ざくろの飲み物を差し上げます。
雅歌 8:1-2


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Copyright(C) 2010 Tamotsu Thomas UEDA