はじめに

2009年5月を迎えて

まずは皆さんに謝らなければならないことがあります。我々の諸事情により、 fugenji.org に発生したハードのトラブルのために、サーバを長期間止めると いう事態に陥ってしまったのです。これは本当にお詫びしなければなりません。

さて、それにしても……この文書を書いてから12年ですよ。 12年!。干支が一回りしてしまいました。なんともはや……

本当は、こんな長期間を経た文書を公開し続けること自体がおかしいのですが、 それ以上におかしいのが、この文書が陳腐化しない世の中の方です。いつになっ たら、僕はこの文書を消せるんでしょうね。

はじめのはじめのそのまたはじめに(2005年1月記:2007年5月追記)

皆さん……10年ですよ。もうこれを書いてから、10年も経ってしまったのです。

このコンテンツを作成したのは、僕がまだ大学院の学生だった頃です。今僕は、 国の研究所の研究員を経て、民間企業の研究法人に身を置く研究者として食べ ています。もともと IT 関連は専門分野ではありませんが、コンピュータを使 い始めてからが長いのと、比較的初期の段階(1992年)から Internet に触れ ているので、あの頃に、何か言わねばならない、と、こんなものを書いたわけ です。

このコンテンツを作成した後、いくつものネット関連の事件がありました。そ の多くは、ネット上での「出会い」に関するトラブルと、メーリングリストな どに代表される commune でのトラブルでした(これらは、携帯電話の出会い 系サイトや、mixi に代表される SNS に場所を移しているものの、実情は前に も増してひどくなっています)。しかし、interactive な形態に変化した blog の台頭で、おそらくは新たなトラブルが発生していくのではないか…… そう僕は考えています(追記: 哀しいことにこの予想は、blog の「炎上」と いう言葉で、あちこちで耳目にするようになってしまいました)。

ひとつだけ、(過程はともかく結果として)安全な方向に動いているのは、無 理して自分を曝す必要はないんだ、という考えが主流になりつつあることです。 しかし、それは自己責任を以てネットを活用する、ということから距離をおく ことで自分を守る、いわば、「思想なき自己防衛」に過ぎない、という一面も ありますから、単純にそれを喜ぶこともできそうにありません。

先に書いた「自己責任」という言葉の現在での使われ方は、僕はあまり好きで はありません。リスクを負うことだけをつきつける方便になってしまっている ようなので……しかし、本来の「自己責任」という言葉は、その暗黙の前提と なっていること……現状の認識と、自分のしようとしていることの行く末を熟 考すること、そして、自分の行動に対しての敏速な反応、ということを守って さえいれば、その本来の意味をとり戻すのかもしれません。僕は、そういう意 味での「自己責任」の意味を、あの頃(もう10年も経ってしまいましたよ!) 考え続けて、その結果、こういうものを書くに至ったのです。

特に SNS を利用されている方、あるいは blog などを書かれている方、そし て自己紹介のページなどを作成されている方には、このコンテンツは今でも読 んでいただく意味のあるものだと思います。Linux を日本に広めた key person である 生越昌己氏 自己紹介 のページからもこのコンテンツにリンクが張られていますが、彼の場合は、ま だ日本の Internet commune が小さく、互いの存在がガラス張りだった時代か らその存在を知られている人なので、あのようなかたちを選択されているのだ と思います。彼の選択したかたちや、僕の今しているような個人情報公開の形 態をそのまま模倣して、生じた損害を彼や僕に求めることだけは、どうかなさ いませぬよう。公開による責任は、公開する者が負わねばならないものですし、 どうもその辺が、10年を経た現在でもピリッと認識されていないような気がす るもので……僕が何を言わんとしているのか、そのことだけは、どうか考えて いただきたいです。

はじめのそのまたはじめに(2002年9月記)

僕がこのページを作ってからもうすぐ5年が経ちます。5年ですよ、5 年!

実に恐ろしいことだとは思いませんか?皆さん。世の中で、こと情報関連で5 年前のもの、と言えば、技術的基盤となっている一部のものを除いては、その ほとんどが陳腐化しているか古典化しているかのいずれか、なのです。僕はこ の5年間、実はひたすらに待ち続けていたのです。このページに書かれている ことが陳腐化してしまうことを。ああ、昔はこんなヤバい感じだったよね〜、 という、笑い話になってしまうことを。

それが、待っても待っても、一向にそうなってくれません。別にこのページは 技術基盤を扱ったものでないのに……どうしてなのでしょうか?

おそらく、このページで扱っているものが、技術基盤よりも更にこのネットワー ク社会の基盤になっているもの……だからなのでしょう。それは何か、と言う と、答は実に簡単なのです:「人間」です。

この5年、このページを公開してから、様々な方面で引用していただいたり、 攻撃されたり、まぁ色々ありました。しかし残念ながら、2ちゃんねるの普及 と携帯電話の情報端末化、という予想外の事態があったにも関わらず、このペー ジで僕の書いたことはほとんど変わっていないのです。つまり、人間の方はほ とんど変わっていないのだ……ということなのでしょう。

僕は、このページに書かれていることは早く古典になってほしい、陳腐になっ てほしい、と願っています。まさかこれから5年の後に、このページが今のよ うな存在ではあり得ないであろう……と思っているのですが、どうなのでしょ うか。いつになったら僕はここに obsolete と書けるのでしょうか。

なぜここにこのようなページを作ったのか

 もともと僕は、個人ページでの情報公開に反対しているわけではありません。 むしろ「個人であっても公開可能なものは公開したらいい」という認識です (これは基本的には今でも変わりません)。

 しかし、この一年程の間で、知人の何人かが、個人情報を公開したことによっ て攻撃されたり、無断でその情報を悪用されたりするようなトラブルに巻き込 まれたり……ということがありました。これに関しては具体的な例を後述しま すが、致命的な打撃を受けた例こそ少なかったものの、その数はひとつやふた つではありませんでした。

 それ以来、交流のある人達に対しては、機会のある度に

「private な情報の管理には注意した方がいいよ」

という話をしていたのですが、そんなある日……テレビで、某大手情報関連機 器メーカーのコマーシャルを目にする機会がありました。その中にこんな場面 が出てくるのです……

(孫の写真を海外駐在中の夫に送った妻が、机の上の孫の写真を見ながら……)

「この子のホームページを作らないと……」

僕は言葉を失いました。本来ユーザーに対して、たとえ広告であっても範を示す べきメーカーが、よりによってやるべきでないことを平気で流すなんて……こ の CF、未だに流されているそうです……

 このようなコマーシャルが作られる影には、network を使っている人達の平 均的な意識として、このコマーシャルの中に登場したような行為を肯定するも のがあるのではないか……そう感じたわけです。これから述べていきますが、 実はこれは危険な行為なのです。

 ただ、Internet の暗黙のポリシーとして、

ひとつの基準を強制するのは好ましくない

という認識があります(僕もその賛同者のひとりです)。単純に「何が良くて 何が悪い」ということは言えない、という意識が定着しているわけです。です からこういった問題について、

これは個人の問題なのだから第三者がとやかく言うべきものではない

とコメントされる方をよく見受けます。

 それは事実です。しかし、危険に直面した人の助けとなる、あるいは危機を 回避する助けとなるべき情報のない状態でただ「自分で何とかしなさい」とい うのは、いささか啓蒙の意識を欠いてはいないでしょうか?

 ここでこれから書くことはあくまで僕の意見です。これを基にして、何を公 開し、何を公開しないかを決めるのはあくまで皆さん自身なのです。もちろん 反論も(それが単に「お前の言うことは気に食わん」というものでなく、理路 整然としたものであるならば)大歓迎です。意味のあるものは、許可をいただ いた上でここにも順次転載させていただくつもりでおります。

 とりあえずは、トラブルの生じるケースについて書いてみようと思います。 但し、実際の例に関して取り上げることはその「被害者」の privacy を侵害 するおそれがありますので、ここで言及していることはあくまでも

事実を基にしたフィクション

であることにご注意下さい。

このページ群を作成するにあたって

 このページが、あまり画像などが貼り込まれておらず、地味な見た目になっ ていると感じられる方が多いと思います。それは別に僕がページ作成の手を抜 いているからではなくて(笑)、以下の点に留意して HTML document を作成 しているからです。

できるだけ軽く

 世間には様々な環境から様々な経路でこのページにアクセスしてくる方がお られます。そういう方々全てが快適にこのページ群を読めるように、不要な画 像ファイルは排除しました。

できるだけ HTML に忠実に

 世間のページのかなりの割合のものが、単に整形のことだけを考えて作成さ れた HTML document です。しかしながら、本来 HTML は文書の論理構造を明 示的に表現するためのものですし、僕自身もここでの自らの論理展開を記述す るのに、そういった HTML のセオリーに忠実である方が書きやすく、また読み やすいものになると考えております。

 そのために、このページ群において、整形の目的のためだけにタグを用いる ことは極力排除しました。一部フォントの色や大きさを変えるのにタグを用い ておりますが、それは論理構造の記述の妨げにならない程度に留めてあります。


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