見えるということ、見えないということ

無知故「ではない」

 僕は、いわゆる「インターネットビギナー」と呼ばれる人達に質問されるこ とがしばしばあるのですが、ほとんどの人がセキュリティに関することを質問 してきます。ですから、ビギナーだからセキュリティに関してよく知らない、 というわけではないのだと思うのです。

 ではなぜ、そういうビギナーであった人達が「使い慣れて」いくうちに、先 のような意見を表明する人達が出現するのでしょうか。

危機感覚は鈍磨する

 危機感というものを常に持ち続けるということは、災害の備えの問題などか らも分かるように、簡単なことではありません。日常生活の中では(少なくと も災害の訪れるその瞬間までは)平穏な日々が続くわけです。

 network 上でも、常に誰かが干渉してくるわけではありません。普段は平穏 な日々(いや……快い刺激に満ちた日々、でしょうか?)が続くわけですが、 その陰には、悪意を持った人が出現する可能性が確実に存在し、しかもその可 能性は network を利用する人が増えれば増える程増大していくわけです。

 最初はそういった危機感を持っていたとしても、日常の平穏さの中で、やが てそれが当り前のものと考えるようになっていってしまう傾向が、どんな人に でもあるのではないでしょうか。

潜水艦社会

 network 上では、アクセス時間の差異はあっても、その上の open なサーバ、 そして更にその上の open な document にはアクセスできるようになっていま す。これがどういうことなのか……実際の生活空間で考えるならば、あたかも今 いる場所が世界中とつながっているようなものだ、というわけです。
 僕の住む街と世界中の大都市がつながっていたら、確かに素晴しいでしょう ねぇ……ん?本当か?大都市っていっても、その中にはきっといろいろな地区 があるんだよな……これって……ひょっとして…… 銃持ったお兄ちゃんもこっちに来れちゃうってこと?

 そう。治安のいい地域ともつながっている代わりに、治安の悪い地域とも同 じようにつながっている……これが open network なのです。品行方正な人も、 犯罪者紛いの人物も、等しく network を使っているのです。

 もちろん、今すぐ何事かアクシデントに遭うとは限りませんし、自分だけが 何者かからの攻撃の標的にされるということもまずないでしょう。しかし、そ ういうトラブルが我が身に舞い込んでくる可能性は確実にあるわけです。

 しかも、そういう人物がこちらに興味を向けているのかどうかは、実際に攻 撃されるまで分からないのです。それはあたかも潜水艦が水中の敵艦を直接見 ることのできないようなもので…… cyberspace という場は、回線越しの通信 という行為でのみ相互作用をする、つまり、他の存在を通信という行為なしで は直接見ることのない社会……いわば「潜水艦社会」だというわけです。

見えないものへの意識

 もちろん周囲は敵だけでなく、友人、知人が多数おられるのが普通なのだと 思います。顏が見えなくとも文字での親密なコミュニケーションを維持してい るのだ、という方がほとんどでしょう……僕の場合もそうですし。

 (これを読まれている)あなたとその友人・知人との関係は、先のロジックに あてはめると、

回線越しの通信という行為で相互作用している関係

つまり cyberspace 上での「見える」関係なのです。これに対して、あなたの 個人情報を不正に利用しようとしているであろう人は、あなたが自分を意識す るようなかたちでのコミュニケーションをとってくるとは限りません。つまり 「見えない」関係、ということになります。

 では、相手から見たらどうなのか、というと……あなたは「見える」のです。 あなたの個人ページの情報、というかたちで。あなたは「見せて」いるの ですから、これは当然のことです。

 しかし、相手が何らかのアクションを起こさない限りはあなたに相手の見え ることはなく、やがてその存在を意識しなくなっていきます。ひょっとしたら、 相手が鼻先を通り抜けているのかもしれないのに、こちらと衝突しない限りは 「見えない」わけです。

 自らと相互作用を持つ人達……友人・知人だけが「見える」……そんな日々 の中で、危機感覚というものを持ち続けることは、やはり相当難しいもののよ うに思えます。

 しかし、忘れないで下さい。見えないのと存在しないのとが同一でないこと を……あなたの望まない人が、あなたを「見て」いる可能性を常に意識すべき なのです。


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