『きっと言える』に関して

昨日公開した『きっと言える』に関して。

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』に関しては、前に書いたけれど、特に思い入れがあるわけではない。というか、ライトノベルというものに関してそもそも懐疑的なので(さも新しいものみたいに言われるけどさ、「集英社コバルト文庫」みたいな土俵はそれこそ30年位前から存在してるわけだし)、その周辺で狂喜乱舞する人々を見ていても、正直、気味が悪い。

というわけで、自分のための楽曲制作に集中しようと思っていたのだけど、まああと1曲位応募しておいてもいいだろう、と、考えを変えたのだった。『すこしあるこう』は、80年代の歌謡曲みたいな曲調で書いたわけだけど、普段僕が演らない作風……渋谷系の流れ……で1曲書こう、と思った理由は、実はカジヒデキである。

僕はつい最近まで知らなかったのだけど、漫画の『デトロイト・メタル・シティ』が映画化されたときに、主人公の根岸崇一――気弱な青年で、ポップでオシャレな曲を歌うべくレコード会社と契約したのに、なぜかメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」の Vo. & Gt. "ヨハネ・クラウザーII世" として売りだされてしまう――が歌っている「ポップでオシャレな曲」として、カジヒデキが『甘い恋人』を提供していたのだった。


カジヒデキという人は、もともとロリポップ・ソニックというバンドに強い影響を受けて世に出た人である。ロリポップ・ソニックというのは後のフリッパーズ・ギターだけど、このロリポップ・ソニック自体がレッドカーテンというバンドの影響を強く受けている……レッドカーテンというのは、後のオリジナル・ラブである……。まあそんな出自で、ある意味今では最も「渋谷系」の色を濃く残しているのがカジヒデキだ、と言っていいと思う。

前に何度か書いたことがあるかもしれないけれど、僕は渋谷系というのが大嫌いである。オリジナル・ラブは例外的によく聴くのだけど、剽窃とヘタウマで理論武装した「渋谷系」というのは大嫌いである。高校時代に同世代の誰も知らないはっぴいえんどとか The Beach Boys を愛好していて、大学に入った途端に渋谷系ブームがやってきて、曽我部恵一のサニー・デイ・サービスのファンに生煮えなはっぴいえんど論を語られたり、フリッパーズ・ギター愛好者に Pet Sounds を語られたりしたときの不快感が、今でもフラッシュバックするのだ。聴く方までヘタウマで、おまけに消費することを以て自己主張するんだからたちが悪いったらない話で、だから僕は渋谷系が大嫌いなのだ。

だから、フリッパーズ・ギターや、件のカジヒデキみたいな作風を、今まで僕は意図的に避けてきたのだが、じゃあもし僕がそういう方法論で曲を作ったらどうなるだろう……という発想で書いたのが、この『きっと言える』である。

本当は、この手のギターポップというのは、もっともっとギターを重ねて作るものなのだけど、今回は自分のための曲ではないので、オーソドックスなギター2本のアレンジでいくことにした。ドラムは(僕は普段は「人間の叩けないフレーズ」を避けるのだけど)普段自分では絶対に使わないパターンを使い、なおかつループのように同じパターンを使い倒した。ベースは、本当なら自分の手弾きにするところなのだけど、メインで使っているジャズベの調子が最近悪いので、今回はシンセベースで組んだ。エレピっぽく聞こえている鍵盤は、実はアナログシンセで組んだ分厚いパッドである。

「おしゃれ」なアレンジ、というとフルートに走ってしまうのは、どうも即物的な気がするのだけど、今回は王道の「フルート + Glockenspiel(いわゆる鉄琴である)」でいくことにした。サンプリングされたフルートをそれっぽく聞けるようにするには、奏法的にはグリスをうまく使うこと、録音ではディレイをうまくつかうことが定石(最近は音楽作ってる人でこんなことも知らない人が実に多いらしい……昔の音楽をもっと聞いていればすぐ分かることなのだけど)なのだけど、今回僕がどうやったか、は秘密である(そんなに簡単にノウハウ公開するわけがない)。

ギターはとにかく簡単に録っている。左のギターはストラトを BOSS OD-1 に通して録ったもの、右はテレキャスを BOSS CE-3 に通して録ったものである。ギターポップ的には、更に2、3本、アコギも含めてオーバーダブするところなのだけど、今回はデモなので、そこまではしていない。ソロのギター(これも BOSS OD-1 を通したストラトである)をオーバーダブした位であろうか。

トラックダウンに関しては、唯一渋谷系っぽくない感じにしてある。このミックスは、前回の『すこしあるこう』と同じく、プレートエコーをかなり厚くかけて、深い音像になるようにしてある。

オケができて、メロディーも作って……さて、問題になるのは詞である。アニメソングの詞を真似ても仕方ないし、カジヒデキの詞を真似る気にもなれない。アニメを観る年齢層に合わせる、と言ってもなあ……などとうだうだやっていると、何時まで経っても書けないので、とりあえず書き始めたのだけれど、そもそも自分のために書いていない曲に詞を書くのは非常に苦痛である。こういうときの詞は大抵暗い世界になるものなのだが……案の定、暗い世界になってしまった。困ったなあ。しかもこの曲、女性が歌うようにキーを設定してあるので、詞とキーとが相俟って歌いづらいことこの上ない。なんだか、要らぬ苦痛を味わってしまったのだった。

まあ、そんな感じで書いた曲ではあるが、現時点でたったひとつついているコメントが「おしゃれ」というもの。うーむ。そうなのかなあ。どうなんでしょうね。

2010/07/13(Tue) 07:32:09 | 作編曲・演奏・録音
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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