福島第一原発で何が起きているのか

流言蜚語とはよくも言ったもので、特に Twitter を中心として、無責任な話が飛び交っている。情報社会だ、と言うならば、一番そこで求められるべきはその情報を吟味する能力のはずなのだけど、どうもその辺は、テクノロジー程には進歩していないようだ。

特に目につくのが、福島第一原子力発電所に関するものだ。ECCS が壊れているからメルトダウンするかもしれない、放射能漏れが深刻だ……等々。まあ僕は原子力工学が専門ではないんだけど、自然科学の関係者ということで、現状に関してここに書いておきたいと思う。

まず、福島第一原子力発電所について、だが、PC 等で web を見られる方はWikipedia のエントリ「福島第一原子力発電所」を御一読いただきたい。ここを見るとはっきり書いてあるのだが、この発電所で稼動している原子炉は全て「沸騰水型軽水炉」と書かれている。

ご存知ない方のために解説をしておくけれど、日本の営業運転している原子炉の形式は、沸騰水型軽水炉 (Boiling Water Reactor, BWR) と加圧水型原子炉 (Pressured Water Reactor, PWR) に分けられる。BWR は、誤解を恐れずに単純に説明するなら、1次冷却水の中に原子炉を漬けて、直接1次冷却水を沸かして蒸気を発生させ、この蒸気でタービンを回して発電する。タービンを通った1次冷却水の蒸気は、2次冷却水で冷やされて水に戻り、循環する。これに対して、PWR では、1次冷却水は加圧されており、1気圧では水蒸気になってしまうような温度でも液体のまま、原子炉で熱せられる。熱された1次冷却水は蒸気発生器で2次冷却水と配管壁越しに接触し、ここで2次冷却水が蒸気となり、タービンに送られる。緊急時には、どちらの形式の炉の場合も制御棒を押し込んで中性子を捕捉し、ECCS(Emergency Core Cooling System, 緊急炉心冷却装置)が作動、炉心を水浸しにすることで冷却し、原子炉を止める仕組みになっている。

さて。では今、福島第一原発で何が起きているのか、というと、この ECCS が作動しない、という状態になっているわけだ。ECCS を駆動するための電力を供給する非常用のディーゼル発電機が動かず、原子炉を停止したために他の冷却ポンプも十分に動かすことができない。まあそういう状態なわけだ。で……これを聞いて、スリーマイル島の原発事故を思い出された方々が、メルトダウンメルトダウンと騒いでいるようなのである。しかし、ちょっと待っていただきたい。スリーマイル島の原発は PWR で、今回の福島第一原発は BWR である。

スリーマイル島で何が起きたかを簡単に説明すると、あの事故のときはまず2次冷却水が止まってしまった。そのために1次冷却水の圧力が上がって、圧力逃がし弁が開いて1次冷却水が失われた。あのときタチが悪かったのは、圧力が低下してもこの逃がし弁が開きっぱなしになってしまったことである。この状態になると、PWR の場合、1次冷却水の圧力が下がった結果、沸騰しないはずの1次冷却水が沸騰してしまう。沸騰すると、冷却水中は泡だらけになるので、1次冷却水の水位が分からなくなってしまう。スリーマイル島の場合は、このために作業員が1次冷却水が過剰になっていると判断し、頼みの綱の ECCS を止めてしまったのである。この結果、炉心の 2/3 が露出する、という、まずありえない(と言うより、あってはならない)事態になってしまい、その結果ああいう事故に至ったのである。

今回の福島第一原発の場合は BWR で、もともと1次冷却水の圧力はそう無茶苦茶に高いわけではない(とは言っても数気圧はあるのだが)。今回も、炉内の水位は正確に把握されているし、もちろんまだ炉心が露出するような事態には至っていない。蒸気圧が上がってきた場合、その蒸気圧を利用して炉心水位を保つ仕組みもあるらしく、まだ炉心上端から3メートル程度のところに水位は維持されているらしい(正常稼動時には6メートル近く)。

今回、放射線レベルが上昇しているのは、1次冷却水の圧力が上がったので、圧力逃がし弁を開けたためであるが、PWR の場合と違い、そう無茶苦茶な圧力がかかっているわけではない(というより、構造的にかけられない……だから逃がし弁を開いたのだ)し、減圧時に激しい沸騰に至るわけでもない。あと数日、何の対策も講じられないならかなり危機的な状況だろうとは思うが、少なくとも、スリーマイル島のときの状況とは比較にならない程、現状での安全レベルは高い。

とにかく、外部電源を何とか接続して、ECCS 以外の系統の冷却水循環ポンプを作動させて、炉心水位を上昇させ、1次冷却水の温度を下げることが、現在の急務である。今日の午後には、東電は電力供給をし切れなくなるとの予想が既に出ているので、今日の午前中に、この電源供給がなされることを、今は祈るしかない。

2011/03/12(Sat) 09:56:37 | 科学

Re:福島第一原発で何が起きているのか

> BWRでもメルトダウンとっくにしてましたね。

2011/03/13(Sun) 11:46:28, I wrote:
] そうですね。この日記のタイブスタンプを見ていただけると
] お分かりかと思いますが、この時点での情報を元に書いて
] いますので。

このエントリに書いているのは、「BWR は炉内水位の把握が本質的に PWR よりし易く、それに起因するような炉心溶融が起こる可能性は低い」ということであって、炉心が完全に露出した場合に炉心が溶融しない、などと言うことは書いていません。斜め読みするのは結構ですが、書いた側としてはどう読んで、どう読んでいないか丸分かりなので、もう少し精読してもらえませんかね。
Thomas(2011/05/23(Mon) 16:39:07)

Re:福島第一原発で何が起きているのか

BWRでもメルトダウンとっくにしてましたね。
guest(2011/05/23(Mon) 03:33:05)

Re:福島第一原発で何が起きているのか

> 数気圧では、効率が非常に悪く、話になりません、おもちゃじゃないんですから。

運転時はそうです。設計限界も90気圧程度だそうです。確かに誤解を与えるような書き方でしたね。ここで言ってるのは今、つまり運転停止時の話ですので、その旨よろしくお願いします。
Thomas(2011/03/13(Sun) 20:38:46)

Re:福島第一原発で何が起きているのか

"福島第一原発の場合は BWR で、もともと1次冷却水の圧力はそう無茶苦茶に高いわけではない(とは言っても数気圧はあるのだが)"
数気圧では、効率が非常に悪く、話になりません、おもちゃじゃないんですから。約70気圧、約280℃(飽和温度)程度で運転するよう設計されているようです。加圧水型は160気圧で、高圧と言う事では本質的な差はありません。
guest(2011/03/13(Sun) 19:19:02)

Re:福島第一原発で何が起きているのか

えーと、

> 水位が落ちて燃料棒が露出してるって東電さんが公式に云ってたよ
> 炉心融解も結局本当だったよ

そうですね。この日記のタイブスタンプを見ていただけるとお分かりかと思いますが、この時点での情報を元に書いていますので。

> 「自然科学の関係者ということで」とありますが、自信がない
> のでしょうか?この文章に関するエクスキューズでしょうか?
> 守備範囲を超えていると思います。

いやー観客からグラウンドに向けて守備範囲の講釈をされても、そんなものは何の意味もありませんので。自信のある・なしではなく、情報と知識、確率的事象に関して頭を回して考えうのが「自然科学の関係者」のすることです。ですから、蓋然的に、情報不足による予測の誤りなどを含むことはありえます。それは読まれる側が判断されることだし、そこを無償で保証できる程僕も暇ではないので。
Thomas(2011/03/13(Sun) 11:46:28)

Re:福島第一原発で何が起きているのか

「自然科学の関係者ということで」とありますが、自信がないのでしょうか?この文章に関するエクスキューズでしょうか?守備範囲を超えていると思います。
guest(2011/03/13(Sun) 08:11:53)

Re:福島第一原発で何が起きているのか

水位が落ちて燃料棒が露出してるって東電さんが公式に云ってたよ
炉心融解も結局本当だったよ
guest(2011/03/13(Sun) 05:38:00)

Re:福島第一原発で何が起きているのか

いやあ良く判りました。スリーマイルくらいにはなるだろうとしたり顔で言ってる奴らに読んでほしい位です。
guest(2011/03/12(Sat) 13:00:20)
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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