不親切

先日、某修道会のシスターから、メールで送られてきた文書が読めないので何とかならないか、という依頼を受けた。こういうことはしばしばあることで、僕は「明日でよろしければ」と約束して、ふらりとその修道会の修道院を訪れたのだった。

詳しいことを聞くと、こういうことらしい。某氏が Microsoft Word で作成した文書をメールに添付して送ってきた。その文書の内容を確認する必要があるので、メーラー上でアイコンをダブルクリックしたけれど、妙なエラーメッセージが出て、Microsoft Word でうまく文書を開くことができない。再送してもらったがやはり駄目……と、そういう状態で僕に電話をかけてきたらしい。

まずはシスターのやったことを再現してみる。MUA の画面にあるアイコンをダブルクリックすると、インストールされている Microsoft Word 2003 が起動するのだが、「MSWRD632.WPC を起動できません」というウインドウが出て、目的のファイルを開くことができない。なるほど。さて、どうしますかね。

まずは、添付されているファイルを HDD にセーブしてみる。foo.doc というファイルがセーブされたわけだが、これをダブルクリックしても、予め起動しておいた Microsoft Word 2003 に読ませても、やはり「MSWRD632.WPC を起動できません」というウインドウが出てくる。うーん、Word 6 っていうと、どうも Mac の匂いがするような気が……でもまあ、まずはファイルを WordPad で開くことを試みるが、やはり無理なので、このファイルの様子を窺うために、無理矢理テキストエディタで開いてみる……ん、これぁ XML っぽいなあ。

Word が XML ベースのファイル形式を使い出したのは、確か Word 2007 以降だったはずだ。皆さんご存知とは思うけれど、 XML ベースのこの新形式のファイルは、従来の形式と区別するために ".docx" という拡張子を付けることになっている。うーむ……この修道会の PC で使われている MUA は古いものなので、ひょっとしたら添付ファイルの拡張子が3文字だと決め打ちしている仕様なのかもしれない。だとしたら、この foo.doc というファイルの名前を foo.docx に変更すれば、開ける可能性があるかもしれない。

もちろん、 Word 2003 はそのままでは .docx 形式のファイルを読むことができない。これはアップデートを適用した後にコンバータを入れればいい筈なのだが、先の「MSWRD632.WPC を起動できません」がどうも気になる。ググってみると、どうもセキュリティ維持のために、一部のファイルフォーマットコンバータが起動しないようにレジストリに記述があって、該当記述を削除する必要があるようだ。

まあ、できるところからやらない限りは前に進まないので、まずはシステムを最新の状態にアップデートして、レジストリの該当記述を削除しておく。これが済むまでに1時間ちょっとが経過した。然る後に、foo.doc の拡張子に x をつけて Word 2003 に読み込ませようとするが……どうもうまくいかない。

じゃあ、大抵のファイルをコンバートできる環境で読ませてやろうじゃないの、ということで、LibreOffice を急遽インストールし、ファイルを読ませてみると……お、開いたぞ。さっきから気になっていたフォントの設定をチェックすると……あー、やっぱり。ヒラギノが指定されている。要するに、

  1. 某氏は Mac 上で Word 2007 以降の Microsoft Word でこの文書を作成した。
  2. 某氏から受信したファイルは、拡張子3文字を決め打ちする MUA のために .docx であったものが .doc でセーブされる。
  3. その結果、XML なのに拡張子が従来フォーマットを指し示しているので Word が混乱。Mac で作成したことだけは読み取って、旧来の Word のコンバータで変換しようとするが、そのコンバータはレジストリで起動が禁止されているので、結局エラーを示すウインドウが出るだけ。
……と、こういう状態になっていたわけだ。この経緯をシスターに話すと、「……あなたが何を言ってるのか全然理解できない」あ゛ー、さもありなん。

まあ、Office 2000 とか今でも使っている人がいるだろうし、最新の Word のフォーマットのファイルを問答無用で送ってくるのは問題があるだろう。そして Mac でヒラギノベースのフォント指定だと、更に問題が複雑化しかねない。そこで、シスターの許可を得た上で、シスターの PC の MUA から、某氏に上記の状況を説明し、「Word 2000 時代の .doc のフォーマットで」「ヒラギノを使わず、できるだけ MS 明朝等のフォントを指定して」文書を作成、送信するように依頼する書状を作成・送信した。で、LibreOffice で開いた文書は、フォントを明示的に Microsoft のシステムに合うように指定し直した上で、.doc 形式でセーブし直しておいた。

しかしなあ……こういうことに、金を払ってソフトを買ってる人々が、どうして翻弄されなきゃならないんだろう。何処かの誰かのように、Linux 上でフリーウェアでゴソゴソやっていてこういう問題に遭遇するのならまだしも。つくづく Microsoft という会社は不親切だと思わされたのだった……まあ、今更こんなこと、言うまでもないことではあるのだけれど。

2011/06/17(Fri) 01:49:25 | コンピュータ&インターネット
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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