Snake Oil Business を暴く(ゲルマニウム編)

土曜日の午後というのは、大抵の人は穏やかに過ごしたいと思っているのではないかと思うのだが、どういうわけか、訪問販売というのが、この時間に多くやってくる傾向がある。いや、うちの近所だけなのかもしれないけれど、家に確実に人がいそうな時間を狙うのは、まぁ当然と言えば当然であろう。

ちょっと前までよく来ていたのが、布団のクリーニングサービスの案内、というやつだった。しかし、僕の住んでいるアパートの女性住人のところで相当しつこい勧誘をやらかしたらしく、一時は警察がパトロールまでやったため、最近はほとんどこない。あと、この辺にはいわゆる「エホバの証人」王国会館なんてものがあるせいか、時々その信者がやってくるのだが、「私はカトリックだ」と言うと、こそこそ帰ってくれる(心中では「裁きの日に生き残れない可哀想な人」とか思われているのだろうが、手前勝手な聖書なんかをでっちあげる連中にそんなことを思われても痛くも痒くもない)。

しかし、だ。ついさっきやってきた奴は新手であった。

「あのー、ゲルマニウムを使いました健康関連の……」

どうも僕はこういうときに腹芸が使えなくていけない。思わず言ってしまった。

「あのですね。僕はドクターコースで二酸化ゲルマニウムの物性測定をしていたんでよく分かってるんですがね」
「おや、そうなんですかぁ(喜色満面)」
……ゲルマニウムやその化合物の多くが有毒なのはご存知ありませんか?ちょっと調べたらすぐに分かりそうなものなんだけど」

とぼそぼそ言ってやったら、口を濁して帰っていった。け。あー汚らわしい。

某歌手が使っていたので有名になった「ゲルマニウムローラー」以来、今に至るまでゲルマニウムは健康に効果があるかのように宣伝されている。デトックスに効くとかなんとかで、ゲルマニウム系の化合物の入ったお湯に喜んで浸る人も未だに多いようである。しかし、ちょっと待ちなさいよ。ちゃんと調べなさいって。

最近はありがたい(いちいちこういうことを書く手間が軽減されるので)ことに、こういう文書が公開されている:

「健康食品」の安全性・有効性情報〔独立行政法人 国立健康・栄養研究所〕
ゲルマニウムに関する情報 (Ver.090115):
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail979.html

僕はもう十数年前からここにある情報に関しては知っていた。僕は材料科学でも基礎物性に関わる研究に従事していた時期が比較的長かったため、他人があまり触らない物質を触ることが多く、触る前には必ずアメリカの化学系の学会などが出している toxic database(昔は分厚い本だったけど、今はTOXNETのような便利なサイトがある)などで毒性をチェックする習慣があったためだ。

今はこんなに分かりやすくまとめた document が公開されているのにも関わらず、あんな風にゲルマニウム絡みの商売を続けている奴もいれば、その商品をありがたがって買ったり、果てには周囲の人に薦めたりする人までいるのか、と思うと、もういい加減にしてほしい、としか言葉がでてこない。あちこちで何度も書いているけれど、こういうものに関わる限り、無知は罪なのである。なんでも「知りませんでした」で済ませるなっての、ああやだ、ぺっぺっぺっ。

2009/07/18(Sat) 15:32:38 | 科学
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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