あえて真剣にタイガー・ウッズ問題を考える

タイガー・ウッズのスキャンダルがとんでもないことになっている。彼と性交渉を持ったとされる女性の数が、一説によると13人確認された、という。スウェーデン出身の彼の妻は、ストックホルム近くに既に家を購入し、別居は時間の問題とまで言われている。

まあ、ここではモラル云々と書くつもりはない。トニー谷曰く「男の上半身は朝日新聞、下半身は内外タイムスでできている」……これは極端な話だが、家庭を持っていてもこのような過ちを犯す人は世の枚挙に暇がないし、犯した罪を今更責めるより、そこにおける彼の状態を是正することの方が大切であろう。そこで、ここでは彼の行状を少し冷静な目で観察し、考察してみよう。

まず、どうしてアメリカでこの問題がこれほどメディアで活発に報道されているのか……だが、これはアメリカという国における性への倫理観というものを知る必要がある。ほとんどの日本人は、アメリカが性に関してオープンな国だと考えているのだろうけれど、実際はこれは逆で、彼らの性のタブーは日本人のそれよりはるかに強い。えー嘘じゃん日本に持ち込めない雑誌とか売ってるんでしょ?と思われる方が多いのだろうけれど、確かにそういうものも売っている。ただし、それにアクセスできる年齢は厳しく制限されているし、それを不快と思う人の耳目にそれが入らないような配慮もなされている。たとえば、アメリカのテレビにはV-chipと呼ばれる半導体の搭載が義務付けられている。これは、テレビ番組の暴力や性に関する描写の程度を数値化した情報を受信し、一定以上の数値が付いた番組を聴取すると、暗証番号の入力なしには受信できない(一定時間間隔で画面表示がされないようになっているらしい)ようになっている。アメリカの性の文化は、日本の法規制よりゆるい部分もあるのだが、それは厳重にセグメントされた中に隔離されており、通常、一般市民が受動的にアクセスできないようにされているのである。

これはどうしてか、というと、アメリカ人の多くがプロテスタントであり、性のタブーがかなり強いためである。日本のように、濡れ場のある二時間ワイドがお茶の間に映ってしまうようなことがあったら(日本人でも気まずくなるだろうけど)、彼らは首を振りながら自室に閉じこもってしまうだろう……それ位、タブーの意識が強い。だからこそ、そのタブーを犯した者への関心もまた高いのである。

性的スキャンダル、というと、我々の記憶に残っているであろうものに、10年前のクリントン元大統領とホワイトハウス実習生モニカ・ルインスキーの不倫問題、というのがある。あのときはクリントンが州知事時代の女性部下にセクハラで訴えられていたために、訴訟の材料としてルインスキーとの関係を持ち出されるのを恐れたクリントンがルインスキーに偽証を依頼し、苦慮したルインスキーが友人に相談したことで事が露見し、あのような騒動になったのだが、あのとき日本であまり報道されなかった興味深い事実がある。性的に奔放な振る舞いをした、という世間の好奇の目の下にあったルインスキーに対し、アメリカの女性人権団体は庇護するのではなく、むしろ批判する側に回った、というのである。これも実は「アメリカのキリスト教」における思想が反映されている……女性の解放が進んだと思われているアメリカではあるが、実はアメリカ人のモラルにおいて、家庭を守る貞淑な女性、というものの評価は非常に高い。特に性的な面において貞淑を犯すことは、アメリカにおいては大きな批判の源になるのである。

これらから考えるに、今回のタイガー・ウッズの事件がこれほどまでに大きくアメリカのメディアを賑わわせるというのは、むしろ自然の成り行きだとも言える。別にアメリカ人が皆下種の勘繰りに精を出しているわけではなくて、この事件が彼らの性的モラルを強く刺激する結果として、このような事態を生むのである。

さて……では、今回の話題にのぼっている女性たちを顧みてみる……このような事件の背景を考えるとき、そこにその何かしらかが反映されていると考えるのが自然だからだ。年齢は……30代がほとんどだが、20代の女性も存在する。職業は……いわゆるサービス業が多いようだが、これはタイガーとの時間的接点のある女性、と考えれば容易に納得できる。そして(日本では何故か全く話題にのぼらないが)人種……黒人も白人も、そしてプエルトリカンのような中南米系の人と思しき人もいる。いや、何が言いたいかというと、「共通要素が『タイガーとの時間的接点』以外に見当たらない」のだ。あえて言えばロングヘアーの女性、ということ位だろうけれど、それも共通点としてはいまひとつ希薄である。

ここから先は僕の推測なのだが、今回の場合、「共通点があまり見当たらない」ことこそが実は重要なのではなかろうか。つまり、手を出せそうで引っかかりそうな女性に片っ端から手を出していったような印象を受けるのだ。そこに共通して彼が求めたものが何だったのか……それは、彼の満たされないものの「代償」だろう、と推測できる。何に対する「代償」なのか……換言すれば「彼は何に満たされない思いを感じていたのか」。それは可能性としては二つ、つまり、彼の夫人への感情か、もしくはゴルファーとしてのプレッシャーか、のいずれかであろう。

タイガーの夫人は前述のとおりスウェーデン出身である。様々な人種の混血として "Caucaneasian" であることを自ら誇るタイガーではあるが、彼はアメリカ西海岸で生まれ育った、つまり、アメリカ人として育った人である。その彼が、英語での会話に問題ないとはいえ北欧で生まれ育った夫人とのコミュニケーション、あるいは生活習慣のずれに対して様々なフラストレーションを抱えていた可能性は低くない。

ゴルファーとしてのプレッシャー、というのは、これは今更書くまでもないことだが、最近のタイガーの状況を考えると、去年に2度の膝の手術を行い、今年は3年ぶりの予選落ちも経験している。そのような状況のなかでも、勝つのが当たり前のように扱われ続け、その期待に応えるためにストイックな生活を自らに課さなければならないならない。これはやはり一人の人間にしては大きなプレッシャーになる。最近のタイガーは睡眠薬を常用しており、オーバードーズで病院に運ばれ、気管挿管まで行ったことがあったというから、やはりこの問題が彼の日常に少なからぬ影響を与えていたことは無視できない。

で、先の女性の共通点の話に戻るのだが……明瞭な共通点が見当たらない、ということから、僕はタイガーが性依存症なのではないか、と考えている。性依存症が、逃れがたいトラウマやプレッシャー、フラストレーションからの逃避として生じるのは、よく知られた事実である。性依存症というのは、未だに病として体系的に扱われているものではなく、その治療に関しても体系化されていない。ただし、先に書いたクリントンの事例においても、依存症全般を扱うスペシャリストが関わったりしているので、タイガーの場合も、そのようなスペシャリストの援助を得る必要があるのではなかろうか。勿論、それを受けたからといって、夫人の信頼・愛情を取り戻すのは容易ではないと思うのだが。

2009/12/09(Wed) 12:58:35 | 社会・政治
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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