インプラント使いまわしに関する奇妙な話

インプラント(人工歯根)の使いまわし、というのは前代未聞の話であるが、豊橋市南大清水町「関歯科クリニック」(関志乃武院長)において、日常的にインプラントの使いまわしがあった、というのはどうやら事実らしい。しかし、この話、どうも調べれば調べるほどに妙な話である。

まず、この関志乃武なる人物に関して、奇妙なことが多すぎる。この関氏は今日、自宅の風呂場で首をメスで切り自殺を計ったのを妻に発見され、病院に運ばれたそうなのだが、そもそもこの人物に関する問題はなんと2004年にまで溯る。関氏は2006年10月1日付で、「2004年7月〜2005年7月の間、自由診療にあたる治療を保険診療と扱うほか、診療報酬を請求できない歯科助手に診療させるなどし、延べ59人について診療報酬の不正・不当請求を行っていた」ことから、愛知社会保険事務局から「保険医療機関の指定と院長の保険医登録を5年間取り消し」という処分を受けている。このときの不当請求額は分かっているだけでも五十五万八千円にものぼる。

おそらく、この事件以来、関氏はクリニックの診療内容をインプラントに特化させたのだと思われる。皆さんご存知の通り、インプラントは保険対象外の治療だからだが、その後、2008年11月に関氏は歯科医師会を自主退会している。通常は歯科医師会に入っていない歯科医師なんてのはまずいないものなのだけど、歯科医師会会員であることは開業上の義務ではないので、やろうと思えばやれてしまう。しかも、通常はこの歯科医師会が歯科医師に対しての注意・指導を行うために、このような状態になってしまうと、その歯科医師はいわば野放し状態になってしまう。事実、豊橋市歯科医師会ではしばらく前から関歯科クリニックに関する問題を把握していたにも関わらず、このクリニックに対して有効な指導を行うことができない状態だった。

2007年にこのクリニックでインプラントの埋め込みを行った70代女性の証言、というのがあるのだが、これが実にひどい話で、治療内容に関するインフォームド・コンセントがないままに23本もの(2、3本ではない。にじゅうさんぼんである)インプラントを埋め込まれたこの女性は、400万円もの治療費を請求されたのだという。そして現状は、今も頭痛や歯ぐきの痛みが続き、「術後、体に不調がない日は1日もない」という。

東日新聞の20日付記事:

http://www.tonichi.net/news.php?categoryid=1&mode=view&id=30765

によると、

 同院に勤務経験のある女性は、関院長が使い回しを否定していることについて「助手としてすぐ隣で手術を見ており、見間違えるはずはない」と断言した。多い日で1日5、6本が使いまわされていたこと、肝炎、骨髄性白血病、心臓病の患者にまで「大丈夫だ」と施術していたことまで告白した。
というのである。もはや我々の想像を大きく超えた事態だと言わざるを得まい。

更に、同記事によると、

 同院は、これまで約2400人に合計6000本のインプラントを埋め込んだとされるが、被害が拡大した理由の1つに地元メディアの対応がある。同歯科医師会は、東愛知新聞社とFM豊橋に対し、何度も広告、宣伝の中止を申し入れたが聞き入れられなかったとして、両地元メディアを名指しで批判した。
とのことで、これが事実だとすれば、東愛知新聞社FM豊橋の社会的責任(こういうときに使う言葉であろう)が問われてしかるべきであろう。いやはや、それにしても、こんなひどい話、聞いたことがない……

そして、何より奇妙なのは、どうも数日前まで、この関歯科クリニックが普通通りに営業していたらしい、ということだ。これは goo のブログ(ブログは消去されているのでgoogle に残っているキャッシュをリンクしておく)を見ると分かるのだが、1月15日まで、普通にブログの記述が続いているのだ……つまりは、明日ニュースになるとしても、今日までは何も変わらない調子でこうやって開業しているクリニックが、そこらにあったっておかしくはない、と言うことではないか。つくづく薄ら寒い話である。

2010/01/20(Wed) 19:20:43 | 社会・政治
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Profile

T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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