アイドル

小中学校時代の僕のアイドルというのが三人いる。当時の僕は本があれば他には何もいらない、という位に、毎日毎日本を読んで(とか書いているけれど、かなりの時間を剣道に割いていたのが実情だった)暮していたのだけど、そんな中でよく読むようになった作家が三人いたのだった。この三人のうちの二人がカトリックだった、というのは、何とも不思議な話だったけれど(別に宗教で小説を選別する気などないのだけど)、その三人というのが、遠藤周作、北杜夫、そして井上ひさしであった。

この時期に井上ひさしを読んでいた、というと、どうもすぐに「ああ、『ブンとフン』とかでしょ」などと決めうちにかかる人がいて困るのだけど(この井上氏の小説デビュー作を読んだのは、高校生の後半だったと思う)、あの頃読んでいた井上氏の小説というと、『四十一番の少年』とか『汚点(しみ)』とかの、彼の少年時代の境遇の暗さを土台とした作品群だった。彼特有のユーモアに満ちた筆致に最初に触れたのは、たしか『モッキンポット師の後始末』だったと記憶している。

井上氏というと、共産党との関係(赤旗等に何度も寄稿しているし、彼の二番目の妻は米原麻里の妹で、やはり共産党との関係がないわけではない)や、前妻や娘が書き残しているいわゆる DV の問題が取り沙汰されているけれど、やはり人は「清濁併せ持つもの」で、あの少年期に読んだ作品群の底に漂う、一種、救いようのない暗さは、今でも印象に残っている。後に彼のユーモラスな作品群に触れるようになってからも、その印象は変わることがなかった。

もう75歳だったし、肺がんの話は聞いていたのだけれど、自分の少年期のアイドルが、また一人世を去ったということは、自らが夕暮れの暗みのような色を湛えた「老い」という領域の中に滑り込んでいく、その加速を感じたような心地がする。アイドル達同様、僕も確実にそこに近付いているということに、僕は焦りと恐れを感じるのだった。

2010/04/11(Sun) 11:32:28 | 日記
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T.T.Ueda
Tamotsu Thomas UEDA

茨城県水戸市生まれ。

横山大観がかつて学んだ小学校から、旧水戸城址にある中学、高校と進学。この頃から音楽を趣味とするようになる。大学は、学部→修士→博士の各課程に在籍し、某省傘下の研究所に就職、その2ヵ月後に学位を授与される(こういう経緯ですが最終学歴は博士課程「修了」です)。職場の隣の小学校で起こった惨劇は未だに心に深く傷を残している。

その後某自動車関連会社の研究法人で国の研究プロジェクトに参画、プロジェクト終了後は数年の彷徨を経て、某所で教育関連業務に従事。

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